第49章 休息
ローと出会うまで、モモは自分のことを平均的だと思っていた。
良くも悪くも、普通。
体格も、腕力も、なにもかも。
ところが、ローと付き合っていると、自分がすごくひ弱に感じる。
高くも低くもなかった身長は、190㎝を越える彼と並ぶと、とても低く見えてしまう。
どちらかといえば、強い方だと思っていた力も、バケモノと比べてしまえば、赤子も同然。
だけど、決してモモがおかしいんじゃない。
ローが、みんながおかしいのだ。
さて、そんな体格も腕力も規格外なバケモノにのしかかられた場合、モモにできることとはなんだろうか。
押しのけて脱出?
無理、寝起きの状態ですら難しかった。
もう一度お髭を抜いてみる?
無理、同じ手が何度も通じる相手じゃない。
だから、モモにできることは、まな板の上の魚のように、ビチビチと可愛らしい抵抗をするくらいだ。
(わたし、ただ起こしにきただけなのに……ッ)
ベッドに引きずり込まれ、呼吸すら奪われ、どうしてこうなった。
両足をばたつかせたくても、モモの倍はありそうな長い足で器用に縫い止められ、ぴくりとも動かない。
そんな抵抗を試みる間にも、ローの舌は まるで当たり前の権利のように、モモの口内を侵略していく。
「ん…、ふ…んぅ…ッ」
必死に離すように訴えるが、唇を食まれ、歯列をなぞるようにくすぐられれば、甘えたような声しか出せない。
そんな自分に恥ずかしくなる。
「……ふッ」
鼻から抜けたローの吐息が、それを笑ったような気がした。
(こ、この…ッ)
恥ずかしさを通り越して、怒りすら感じてくる。
いっそ、この舌を噛んでやろうか。
モモの不穏な空気を感じとったのか、ローが名残惜しそうに唇を離す。
溢れた唾液が銀糸となり、唇の端から滴る。
モモが若い小娘ならば、この光景にただならぬ恥じらいを感じただろうが、もはやモモは小娘ではない。
金緑色の瞳を細め、不満げにローを睨み上げた。