第49章 休息
ローの部屋は、あいかわらず部屋の大半を本が占めている。
壁一面の本棚とか、荒波に揺られて崩れそうなものだが、どういう原理なのか、モモは本が落ちる音を聞いたことがない。
そんなことはさておき、部屋の主はというと、大きなベッドで呑気に就寝中だ。
例によって、布団も掛けず、上半身裸で。
素晴らしく鍛え上げられた身体や、芸術的なタトゥーをお披露目してくださるのは結構だが、できればちゃんと布団に入って寝てほしい。
しかし今日に限っては、布団を剥ぎ取る手間が省けるのでちょうどいい。
本を片手に、寝落ちしたと思われるローを、モモは文字通り叩き起こした。
「ちょっと、ロー! 起きて!」
ベッドに乗り上げ、その引き締まった腹をべちべち叩いて声を張り上げた。
すると規則正しい寝息が途切れ、うっすらと目を開ける。
「……モモ?」
寝起きの掠れた声が、モモの名前を呼んだ。
「ねぇ、船がすごい状況なんだけど。あれって…──」
どういうこと? と紡ごうとした言葉を飲み込んだ。
なぜなら、腹部に置いていた手を、思いっきり引っ張られたからだ。
「むぐ……ッ」
ベッドに引き上げられて、逞しい胸板に鼻を打つ。
固い、痛い。
ただでさえ低い鼻が、これ以上ぺちゃんこになったらどうしてくれる。
文句を言ってやろうと顔を上げたら、やたらボーッとしたローと目が合った。
あれ、なんかちょっと…寝ぼけてる?
「……モモ。」
再び名前を呼ばれる。
普段よりゆったりとした口ぶりからも、寝ぼけていることが窺える。
なら、しょうがない。
鼻が低くなった件は大目に見ようじゃないか。
「おはよう、ロー。あのね…──」
改めて用件を口にしようとしたが、今度も失敗した。
ローが思いっきり抱きしめてきたからだ。
「ぐぇ…ッ」
寝ぼけてるせいで、力加減がおかしい。
内臓が圧迫されたせいで、乙女らしからぬ声が出てしまった。