第49章 休息
「し、信じ…られない……。」
そうモモが愕然と呟いたのは、島を出た翌朝のことである。
「嘘でしょう…?」
ふらふらと歩いてしまうのは、船が揺れているからでも、ましてやモモの足取りがおぼつかないからでもない。
ちょっと誰か、この状況を説明して。
この、船の散らかりようを!
昨夜、この船の惨状に気がつかなかったのは、月明かりだけを頼りに、自室へ戻ったからだ。
途中、通路でいろいろと踏んづけたけど、そこまで気にしていなかった。
それなのに、今朝部屋から出てみると…。
ゴミ、ゴミ、ゴミ。
通路にも、リビングにも、デッキにも!
キッチンなんか、目も当てられない状況だった。
なぜ、こうなった。
モモが不在にしていたのは、数週間だけのはずなのに。
朝食を作る気にもならず、モモは男部屋へと足を向けた。
もちろん、事情を聞くためである。
部屋の前に着くと、ドアを開けてもいないのに、地響きのようなイビキが聞こえてくる。
気持ちよく寝てる場合じゃないぞ。
バタン!
勢いよくドアを開けた瞬間、モモはその行為を後悔した。
「───ッ」
臭い。
ものすごく。
生乾きの雑巾のような、雨に濡れた野良犬のような…。
鼻を塞がずにはいられない悪臭が、部屋に充満している。
よくこんな臭いの中、イビキをかいて寝ていられるものだ。
思わず開けたばかりのドアを閉めた。
ダメだ、これは。
踏み込む勇気がない。
すぐさま回れ右をして、来た道を戻る。
通路に散らかった、汚れた布やロープに途中躓きながらも、モモは自分の部屋…ではなく、その隣の部屋のドアを、ノックもなしに開け放つ。
バタン!
開けた瞬間、今度は消毒液のような匂いが鼻をつく。
よかった、悪臭じゃなくて。
この部屋までそうだったら、うっかり気絶するところだ。
モモの大好きな人は、医者にふさわしく綺麗好きで、今までの惨状が別世界のように清潔な部屋に住んでいる。
が、しかし。
ここは彼の船だ。
さぁ、汚船化してしまったことを、説明願おうじゃないか。