第48章 欠けた力
「……ーい、…ぉーい…!」
モモとベポが見つめている方向から、叫び声が聞こえてくる。
それも、ひとりだけじゃない。
何人もの声。
明らかにメルディアとカトレアのものではない声に、ベポだけでなくモモも驚き、よく目を凝らした。
真っ暗だった海岸にポツポツと明かりが灯りはじめ、ようやくここからでも様子を窺えるようになった。
「あれは……。」
誰かいる。
メルディアたちだけでなく、何人も。
「……おーいッ、海賊の…ねえちゃーん…!」
人だかりの最前列で、明かりを持った手を振り、叫ぶ男がいる。
「あれ、あの人……!」
聞き覚えのある声の主は、カトレアを娘のように可愛がっていた、村人のベンだった。
どうして彼がここに?
いや、それよりも、ローのオペを受けたとはいえ、あんなに叫んで大丈夫なのだろうか。
「おーい、薬剤師の…ねえちゃーん……!」
ベンだけでなく、たくさんの村人がモモを呼ぶ。
あの人も、あの人も、みんな最初はモモたちを責めて、そして気まずげに謝ってきた人たちばかりだ。
呆然と眺めていると、村人たちはこちらに向かってさらに叫ぶ。
「黙って行っちまうなんて…、ひでぇじゃねーかァ……!」
「俺たちはまだ、なんの礼もしてねぇのによー…!」
そんなことない。
謝罪も、お礼も、たくさんしてもらった。
「……ごめんなぁ!」
「怒鳴っちまって、悪かったァ…!」
いいよ、そんなの。
結局、わたしは誰も助けられなかった。
「ねえちゃーん…!」
「「ありがとよー!!」」
村人たちの声が、重なった。
「……ッ。」
それを聞いた瞬間、熱いものが込み上げてきた。
「また来いよー!」
「ぜったいだぞー!」
あの村人たちが、非協力的で軽蔑の眼差しを向けてきた村人たちが、今、本当の意味で感謝を伝えてくる。
この、わたしに。
なにもできなくて、助けられなかったのに。
それでも、わたしに。
「また…、来ます……!」
それが堪らなく嬉しかった。