第48章 欠けた力
錨を完全に上げ切り、帆を張る。
バタバタと旗が風にはためく音に紛れて、誰かの声が聞こえてくる。
「……ん?」
一瞬、風がうねる音かと思ったが、よくよく耳を澄ませてみれば、やはり人の声だ。
「……って、………ちゃん…!」
その声にどこか聞き覚えがあって、モモは再び船縁に走る。
「……おねえ…ちゃん!」
「カトレア!」
夜の闇に目を凝らすと、村の方から小さな人影が駆け寄ってくる。
間違いない、カトレアだ。
しかし、錨を失った船は、ゆっくりと動き出してしまう。
陸から離れていくことに焦り、船縁から身を乗り出す。
そうとは知らないベポが、そのタイミングで面舵をいっぱいに切ったため、身を乗り出す程度じゃすまなくなった。
「きゃ……ッ」
船が動いた反動で、モモの身が投げ出される。
「お、おねえちゃん……!!」
海に落ちるモモを見て、カトレアは思わず手で目を覆う。
モモ自身、衝撃に備えて固く目を瞑った。
“ROOM”
次の瞬間、モモの身体は温かみに包まれ、そしてその次の瞬間には、島の波打ち際に立っていた。
「え……?」
いや、正しく言うなら立ってはいない。
モモは陸に立つローの腕の中にいた。
おずおずと見上げれば、助けてくれたモモの恋人は、ひどくご立腹だった。
「バカが…ッ、落ちないと言ったヤツはどこのどいつだ。」
ハイ、わたしです。
ごめんなさい。
おそらくこれで、ローの心配性が悪化した。
「お、おねえちゃん…ッ、大丈夫!?」
こちらは本当に肝を冷やしたであろうカトレア。
大慌てで駆け寄ってくる。
「もうッ、あんたってどうしていつも、そんなにドジなの!」
「メル!」
闇夜のせいでわからなかったが、カトレアのすぐ後ろには、メルディアがいた。
別れを言いたがっていたモモのために、彼女がカトレアを連れてきてくれたのだ。