第48章 欠けた力
「……ただいま。」
「早かったな。」
宿屋に戻ると、部屋にシャチたちの姿はなく、ローがひとり残っていた。
「あれ、みんなは?」
「メルディアのヤツが見つからないとかで、外を走り回ってる。」
眉間のシワが1本増えた。
これは、「なんであの女のために、時間を無駄にしなくちゃいけない」とか考えている顔だ。
「あ…、わたし、メルと会ったわ。」
「なんだと?」
ローが怪訝そうにする。
モモはカトレアに会いにいったのに、どうしてメルディアと会ったのか…そう不思議に思うのは当然だ。
「カトレアの家にメルがいたの。それで…、メルは…一緒には行かないって。」
言葉にすると、先ほど感じた寂しさが再び甦ってきた。
「そうか……。」
たぶん、ローにとっては厄介者が減って嬉しいはずだ。
けれど彼は、慰めるようにモモの頭を撫でる。
モモが落ち込んでいることをわかっているのだ。
「……あのチビとは、ちゃんと話せたのか?」
「チビじゃなくて、カトレアよ。…話せなかった。お家にいなくて。」
「……。」
無言のまま、頭を撫でていた手が止まり、その指先に髪を絡ませる。
くるくると指先で髪を弄んだと思えば、呟くように口を開いた。
「出発は…、明日にするか。」
ローが、一度決めたことを覆すのは珍しい。
船長として決めたことなら、なおさら。
どうして、とは聞かなかった。
それは愚問というやつだろう。
彼はモモが寂しがり、さらには別れを惜しむこともできなかったことを気遣っているのだ。
ここで頷いても、誰も責めたりしない。
優しい仲間ばかりだから。
でも……。
「ありがとう。大丈夫よ、船に向かいましょう。」
危険を回避するための船出。
1日でも早い方がいいと、誰もが考えた。
メルディアと別れるのは寂しいし、カトレアに挨拶ができないのは心残り。
けれど、それと大切な人たちの安全とは、秤に掛けることすらできない。
「行きましょう、ロー。」
そう言って、宿屋の部屋からは誰もいなくなった。