第48章 欠けた力
今夜、島を出る。
村人には、特に知らせない。
ローが嫌がったからだ。
再び感謝を述べられるのも、別れを惜しまれるのも、彼にとっては煩わしいだけなのだろう。
結局、モモもそれに同意した。
村人たちはモモに負い目を感じていて、何度も謝罪を受けた。
仕方のないことだ。
原因不明の病が蔓延すれば、誰だって疑心暗鬼になる。
けれど、モモが許しても村人たちの気は晴れず、申し訳なさそうな視線を受けるばかり。
それならば、いっそのこと黙って旅立つ方がいいように思えた。
けれど、ちゃんとお別れを言っておきたい人もいる。
ローに時間をもらって、モモは一軒の家の戸を叩いた。
コンコン。
リンゴ畑の中心にある、小さな家。
ここには、モモが友達になった少女が住んでいた。
カトレア。
彼女だけには、お別れが言いたい。
ガチャリ…とドアが開くと、家の中の光が漏れる。
(よかった、まだ起きていたのね。)
もしかしたら、寝てしまっているかもと心配していた。
「夜遅くにごめんね、カト…レア……?」
言葉に疑問符がついてしまったのは、中から出てきた人物が、目的の少女ではなかったからだ。
「モモじゃない。どうしたの、こんな時間に。」
「メル…!」
ドアを開けたのは、モモの親友メルディアだった。
「メルこそ、どうしてここに?」
彼女は宿の部屋におらず、出航するにあたってベポたちが探していた。
ローは置いていけばいいだなんて、軽口を叩いていたけど。
「ここのお嬢ちゃんと商談してるのよ。宿屋なんかより、居心地もいいしね。」
そういえば、リンゴの独占がどうとかって商人魂を燃やしていたっけ。
「あのね、急で申し訳ないんだけど、わたしたち船を出すことにしたの。」
「あら、本当に急ね。ああ、でも…そうね……。」
メルディアは少し驚いた顔をしたが、すぐにビブルカードのことを察し、理解してくれた。
「確かに。モモは島に長居しない方がいいわ。海軍の連中って、ハエみたいにしつこいんだから。」
「ハエって……。」
その例え方はどうなんだろう。