第48章 欠けた力
この誤解をどうやって解いたらいいだろう。
エースが父親だなんて、彼に悪すぎるし、なによりローにそんな勘違いをされていることが嫌だ。
「あのね、ロー。違うから…!」
とりあえず、全力で否定するしかない。
「違うって…、なにがだ。」
「その…、コハクの父親よ。エースじゃないから!」
「……は?」
今度はローが驚く番だった。
そりゃ、そうだよね。
今さらなにを言っているんだって思うよね。
モモの嘘が紛らわしすぎた。
「ごめんなさい…。嘘なの、白ひげ海賊団にいたって話。」
「なんだと…?」
「昔の話を聞かれたくなくて、つい……。」
それにしたって、本当に。
どうして自分はこんなに嘘がヘタなのか。
どうせ吐くなら、もっとマシな嘘があったはずなのに。
「……。」
長い沈黙が落ちた。
なんだろう、昨日からモモは、ローの沈黙に怯えてばかりいる。
そして、沈黙のあとに続いた質問は、モモが1番恐れていたものだ。
「なぜ、そんなに昔の話をしたがらない。」
「それは……。」
だって、言えるはずがないじゃないか。
あなたの消えた記憶の中に、わたしがいたことを。
「昔…、わたしはローが想像できないくらい、悪いことをしたの。それをどうしても…、話したくない。」
言えないんだよ、それだけは。
話したくないんじゃなくて、言えないの。
今、再びローの恋人となった。
だからといって、「実は昔もあなたの恋人でした。コハクはあなたの子です」なんて言えるはずがない。
消えたローの記憶は、二度と戻らないのだから。
幸せになっちゃいけない。
ローの気持ちを受け入れちゃいけない。
それが罪を償うこと…なんてもう思わない。
わたしは幸せになるし、ローを幸せにする。
けれど、どうしても。
越えられない一線は存在するのだ。
モモにとっては、それが“過去”ということに他ならない。