第48章 欠けた力
宿へ戻ると、まだ早朝であるのに仲間たちは全員起きていた。
「おかえりなさい、モモ。朝の散歩?」
「うん、そんなところ。…それよりどうしたの、メル。なんだか賑やかね。」
集まっていたのはハートの一味だけではなく、健康な村人の姿もあった。
「ええ、ユキギツネの捕獲を始めようかと思って。」
森に住み着いた外来種のキツネ。
このまま放っておけば、生態系の変化はもちろん、今回の悪夢が再び訪れる可能性がある。
早急に手を打たねばならないが、駆逐という手段はメルディアが許さない。
「昨夜、仲間と連絡を取ったのよ。1週間以内に迎えがきて、ユキギツネを引き取る手筈が整ったの。」
「いつの間に…。」
「何事もスピードが命だもの。ついでに、当面の水と食糧も運んでくるように手配したわ。」
病が収束したからといって、村は安心できる状態ではなかった。
海賊の襲撃により、深刻な食糧難に陥っていたのだ。
それを見越して、メルディアは必要なものを仕事仲間に用意させた。
それも、無料で。
村人からしてみれば、まさに救世主。
「メルディア様…、ありがとうございます…ッ」
「いいのよ。その代わり、例の約束…お願いね?」
「はい! それはもちろんでございます!」
例の約束ってなんだろう。
視線でメルディアに問えば、彼女はふふっと悪戯っぽく笑った。
「ここのリンゴ、すごく美味しいと思わない? わざわざ買い付けにくる店もあるみたいなの。…だから、独占契約させてもらおうと思って。」
「……。」
確かに、カトレアにもらったリンゴはとても甘くておいしかった。
でも、この状況でよく商売ができたものだ。
モモの胡乱げな目にも、メルディアは負けない。
「あら? チャンスはいつでも転がっているものよ。」
まあ、彼女のそういうところ、好きだけど。
村人たちも感謝してるしね。
「私たちはこれから森でユキギツネを捕獲するけど、あなたはどうする?」
「わたしは……。」
セイレーンの力が消えてしまった。
取り戻す方法がわからない。
でも……。
「キラーの様子を見に行こうと思う。」
彼に唄ってあげることができなくなったけど、それでもお見舞いにはいきたかった。