第48章 欠けた力
「…で、その滅びの歌とやらを唄った時、なにか異変はなかったのか。」
ローの問いに、あの時のことを思い出す。
「異変…か…。あ、そういえば……。」
「なにか思い当たることがありそうだな。」
「うん…。唄い始めてすぐ、喉が痛んで唄えなくなったの。」
喉が熱くなって、咽せるような咳が出た。
その様子を見て、キッドもホーキンスも諦めたのだった。
「なぜそれを早く言わねェんだ。今も不調はあるのか。」
とたんにローは渋面を作り、モモの口を開けさせようとする。
持病の心配性だ。
「もう大丈夫だから…。痛んだのも あの時だけだし、わたしも忘れていたくらいで。」
診察を丁重にお断りし、それでもまだ心配そうにするローを宥める。
「でも、確かにあれが原因だったのかも…。」
むしろ、それ以外に考えられない。
「だけど、歌は失敗したのに。」
成功したのなら、まだわかる。
他者の命と引き替えに、セイレーンの力を失う。
なるほど、禁忌として相応しい代償だ。
けれど、モモは歌に失敗した。
失敗してもなお、セイレーンの力は失われるのだろうか。
「……歌を唄えないなんて、わたしに価値はないわ。」
だけど、政府には追われ続ける。
彼らにとって重要なのは、モモの能力の有無ではなく、その血筋だから。
繁殖すれば、子供には問題なく能力は遺伝する。
力を使えない上に、危険は変わらない。
最悪じゃないか。
ただでさえ、足手まといなのに…。
どんよりと落ち込むモモの頭を、ローが優しく撫でる。
「唄えなくなんて、ないだろ。」
「……え?」
「お前は唄えるじゃねェか。さっきの歌も、俺はすごく…良かったと思う。」
さっきの歌。
なんの力もこもらない、慈しみの歌。
力がなければ ただの歌だが、それをローは好きだと言ってくれる。
(うん…。そうね、確かに…。)
声が出なくなったわけじゃない。
歌が唄えないわけじゃない。
力がなくても、歌は唄える。
それでは意味がないと思っていたけど。
「力があろうとなかろうと、お前は好きに唄えばいい。」
「……ありがとう、ロー。」
この人を好きになって、本当によかった。