第48章 欠けた力
翌朝、モモは草木のおおい茂る森へ来た。
疲れのせい。
ローの推測は正直しっくりこなくて、昨夜はあまり眠れなかった。
朝露に濡れる植物を前に、モモはひと息ついてから、慈しみの歌を唄った。
いつもなら、慈しみの歌を聞いた植物たちは、その歌に反応して元気になったり成長したりと、様々な反応をみせてくれる。
けれど、今回は……。
「……どうして。」
堂々と聳える大木も、ひっそりと花咲かせる野草も、沈黙したまま変化がない。
歌が、なんの力も発揮しないのだ。
「昨日と同じだわ…。」
やっぱり、昨夜の歌も疲れていたせいじゃない。
モモは今、セイレーンの力を発揮できずにいる。
「いったいどうして…。」
歌が唄えない。
自分の存在価値が見いだせなくなり、途方に暮れる。
ガサ…。
枝の擦れる音がして振り向くと、いつの間にかローが立っていた。
「…ロー、力が戻らないの。」
「ああ。」
どうやら、ずいぶん前から見守ってくれていたようだ。
「なにか心当たりはねェのか。」
「心当たり…。」
そうはいっても、唄えないことなんか今までなかったし、心当たりなんか…──。
「あ……。」
「…あるのか?」
「うん、もしかして…。」
昨日、初めて挑戦したことがある。
キラーを救うため、微かな希望に賭けた。
その希望は…。
「……滅びの歌。」
禁忌とされていた歌を、モモは初めて唄った。
結果として失敗に終わったけど。
「滅びの歌? なんだ、それは。」
「聞いた者を滅ぼす歌なの。寄生虫を殺せるかと思って…。その…、禁忌の歌なんだけど。」
「禁じられたものを唄ったのか?」
咎められるように言われ、モモは慌てて言い訳をする。
「でも、命を救うために唄えば大丈夫だと思って…。結局失敗しちゃったけど…。」
「そういう問題じゃない。そんな簡単な話なら、禁じられることもないだろ。」
まったくの正論だ。
だけど、あの時のモモには、その選択しか残されていなかった。
「…ごめんなさい。」
「怒っているわけじゃねェよ。…ただ、なにかあってからじゃ遅い。」
その“なにか”は、まさに今 モモの身へと降りかかっている。