第48章 欠けた力
ようやく身体を解放されると、無意味に息がゼイゼイと上がった。
ローの行動は心臓に悪い。
深呼吸をしながら息を整えていると、彼に大事なことを伝え忘れていたことに気がつく。
(いけない、むしろこっちの方が重要だった。)
爪を短く切られた親指。
これが原因で、これからの航海は危険が増す可能性があるのだ。
セイレーンの力を話しそびれた時ように、政府を甘く見ることはもうしない。
「ロー。もうひとつ言わなくちゃいけないことがあるの。」
「なんだ。」
モモの深刻さが伝わったのか、ローも先ほどのような甘い空気を消す。
「海軍に捕まっている時にね、爪を切られたの。その時はなぜだかわからなかったけど、それってもしかして……。」
モモの懸念がわかったのだろう。
ローの眉間にシワが寄る。
「……ビブルカードか。」
「…うん。たぶん、そうだと思う。」
たぶんではなく、間違いない。
サカズキほどの男だ。
そのくらいの保険、かけて当然だろう。
「ねぇ、ロー。わたしを連れていくと、これから常に海軍に居場所を知られることになるわ。」
5億の賞金首を前に、撤退するほど重要な存在。
海軍が追わないはずがない。
「いつ海軍が、サカズキが襲ってくるかわからない。…それでも、わたしを連れていってくれる?」
普通に考えたら、船に乗せるにはリスクが高すぎる。
けれど、モモの船長はそんなことを気にする人間ではない。
「当たり前だろ。答えがわかりきった質問をするんじゃねェ。」
「襲撃を受けたらどうするの?」
「その時はその時だ。それに、赤犬の野郎には返さなきゃいけねェ借りがある。」
モモを置いていくなんて論外。
迷う素振りも見せなかった。
問題は山積みだけど、その即答ぶりが嬉しい。
「うん。わたしも、もう離れたくない。」
どんな困難が降りかかってきても、ローと…仲間と共に乗り越えていこう。
一定の距離を保ちつつ、そっとローの腕に寄り添えば、ハァ…と悩ましいため息が落ちてくる。
「今すぐ出航するか。」
「……ダメ。」