第48章 欠けた力
掠めるような口づけを首筋に感じ、くすぐったさに身を捩る。
すると、自分もローの首もとに顔を埋めるような体制になった。
オペの名残か、彼からは消毒液の匂いがする。
モモはこの匂いが大好きだ。
(……そういえば。)
ふと我に返った。
(わたし、最後にお風呂入ったの…いつだっけ。)
だってほら、拠点にしていたのは廃屋で、当然お風呂なんかなくて。
村がこんな状態だから、借りるわけにもいかなくて。
身体が汚らしいのは嫌だったから、水浴びくらいしたかったけど、キッドとホーキンスの手前、裸になるのは躊躇われた。
だからできたことといえば、濡らしたタオルで拭いたくらい。
清潔とは言い難い。
つまり…。
たぶん、臭う。
その瞬間、ちゅっと音を立てて肌を吸われた。
(ひぃ……ッ)
これはマズイ。
かなりマズイ。
先ほどとは違った種類の羞恥が顔を燃やし、仰け反る勢いでローから離れた。
とはいっても、腕の拘束が外れないので、身体は密着したままだが。
「……なんだ。」
ローから不満そうな声が漏れる。
だって、しょうがないじゃないか。
緊急事態だ。
臭いとか思われたら、女として死ねる。
「ちょ、ちょっと…、離して。」
「嫌だ。」
そんな即答で断らないでください。
乙女の気持ちもわかってほしい。
再び口づけを求めてローの顔が近づいてくるものだから、慌ててその顔を両手で掴み止める。
すると、目に見えて不機嫌になった。
「……なんだ。」
「だからその、離してほしいかなって…。」
「嫌だと言ってんだろ。」
でも、わたしも嫌です。
無言の拒否をすると、ローも無言のままこちらの手を外しにかかる。
力で適うはずもなく、あっさりと顔を掴んだ手が外されてしまう。
そのまま引き寄せようとするものだから、ものすごく焦った。
「ま、待って! わたし…、たぶん臭うから!」
ああ、言いたくもないことを白状してしまった。
なにが悲しくて、こんなことを言わなくちゃいけないんだ。
情けなくて、八つ当たり気味にローを睨んだ。