第11章 大好きが止まらない
(…待て、アイツにはその気はねェ。ここでがっついてどうする。)
自制するとさっき決めたばかりだ。
モモに無理をさせたくない。
ローはもう一度、大きく深呼吸をすると、気を引き締めてバスルームを出た。
「あ、おかえりなさい。」
部屋に戻るとソファーでくつろぎながら、種の仕分けをするモモがいた。
「なんだ、それ。」
仕分けする種の中に、ずいぶんと発色のいい赤色の種がある。
「あ、これ? なんか食虫植物の種なんだって。」
「なんだってそんなもん持ってんだよ。」
モモとて欲しくて手に入れたのではない。
「菜園のおじさんがくれたの。なんか断れなくって…。でも害虫とか食べてくれるなら、一緒に育ててもいいかもしれないね。」
時間ができたら植えてみよう。
食虫植物の種を他の薬草とは別に布袋にしまった。
「ロー。あの…、この前借りた本、読み終わったから、次はこれを借りてもいい?」
「ん、ああ…。」
モモが示す本を特に気にするでもなく返事をする。
「えっと、じゃあ…。」
そろりとローに近寄った。
お風呂上がりで、石けんの香りがするローの腕を引く。
ローはビクリと驚き、身を強ばらせた。
「「………。」」
無言の見つめ合いが続く。
「あの…。」
堪えきれず沈黙を破ったのはモモの方。
「なん、だ…。」
「…屈んでくれないと、できないのだけど。」
自分とローに、いったいどれほど身長差があると思っているのか。
「…なにを、だ。」
「なにって…。約束でしょう?」
本1冊につき、キス1回。
もともとローが提案したことだ。
「……。あれは、もう、いい。」
ローはフイと顔を逸らして言った。
「え?」
一応、それなりに気合いを入れていただけに、キョトンとしてしまう。
「あれは…、お前にキスをするための口実みたいなモンだから、もう必要ねェ。」
自分たちは想いが通じ合ったから、そんなものはもういらない。
「……そう。」
じゃあ、遠慮なく借りるね? とモモはローから手を放し、引き下がった。
(なんだ…、残念…だな…。)
本当は、キスしたかった。