第48章 欠けた力
「あ、あの、ロー……。」
「ん?」
ち、近い。
ローの顔を見上げると、特に。
でも、ちゃんと聞かなくては。
「わたし、まだ…ローの女なの?」
ああ、心臓の音がうるさい。
密着している胸から、ローに伝わってしまうんじゃないか。
「自惚れてもいいの? まだ、ローに好かれているって…。」
期待と不安が入り混じって、もう泣きそうだ。
それなのにローときたら、珍しく驚いた顔をした。
「お前…、わかんねェのか。」
わからないから聞いているの。
ローの気持ちがわかっていたら、こんなにも心乱されたりしない。
「だいたい、まだってなんだ。お前はいつ、俺の女じゃなくなった。」
「だ、だって…。ローの意志を無視して勝手なことをしたし、愛想を尽かされても当然じゃない。」
それに宿でも、ローは“許さない”って言った。
「……ハァ。」
わざとらしくため息を吐かれ、思わずむっとする。
こんなに真剣に聞いているのに!
けれどそんな不満など、すぐに吹き飛んだ。
「そんなことで尽きる愛想なら、どれだけ楽だっただろうな。」
「……!」
「お前はなにもわかっちゃいねェ。」
わからない。
たぶん、一生。
ローがモモに向ける愛情を。
好きとか、愛しているとか、そんな言葉じゃ足りない。
幻滅できたら、嫌いになれたら、どれだけ楽だったことか。
そんな想いを、モモが理解することはない。
少なくとも、彼女が「自分の方がローを好き」だなんて思っているうちは、絶対に。
「だったら、教えて。」
そんなことを言うモモは、やっぱりなにもわかっていない。
教えたら最後、モモの方が裸足で逃げ出すんじゃないか。
この、おぞましいほどの執着を。
でも、ひとつだけ言うのなら。
「お前はもう、俺から逃げられねェよ。」
欲しかった言葉を得た。
だからもう、モモは自分のものだ。
身体も心も、心臓さえも。
二度と離れることは許さない。
その鼓動を止めることさえ、許しはしない。
もちろん、甘い唇も自分のもの。
引き寄せるように抱けば、僅かに開いた距離はすぐに縮まった。