第48章 欠けた力
フッと笑う気配がして、顔を上げた。
しかし、俯いたローの表情は帽子に隠れていて見ることができない。
「……?」
仲間内からは、なにを考えているのかよくわからないと評されるロー。
それでもモモは、割とローの考えがわかっていた。
しかし、今回ばかりは彼の考えがわからない。
笑っているのか、怒っているのか、それさえも。
じりじりと様子を窺っていると、ふいにローが顔を上げた。
それと同時に、彼との距離が一気に縮まる。
「……!?」
呼吸が顔にかかりそうな距離に、思わず息が止まった。
(ななな、なに……!?)
驚いて一歩下がろうとすれば、いつの間にか腰に回った腕がそれを許さない。
「あの、ちょっと…、ロー…!」
この距離はダメだ。
心臓が破裂する。
今日まで、触れ合いどころか声を聞くこともできなかったのだ。
ときめきを通り越して、心臓が爆音を鳴らし耳が痛い。
「は、離して…。」
「なぜ?」
なぜって…。
わからないかな、死にそうなんです。
「お前、俺のことが好きなんだろ?」
「……ッ」
その通り。
その通りなんだけど、改めて確認されると、今さらながら恥ずかしい。
「オイ、どうなんだ。」
しつこく聞き返されて、歯を食いしばる。
「好き、です。」
なんでだ。
どうしてこんな距離で、告白しなきゃいけないんだろう。
「なら、問題ねェな。」
「……問題?」
あると思う。
とりあえず、この距離が。
迫力のない赤らんだ顔で非難がましい表情をすると、不敵な笑みを返された。
「お前は俺の女だろう? ……名実ともにな。」
「……!!」
心臓が口から飛び出るかと思った。
ローは前からモモのことを“俺の女”と言っていたが、それは彼が強引にそうしていただけだ。
けれど、これからは違う。
(あれ、でも、それって……。)
わたしはまだ“ローの女”なの?
ローはまだ、わたしのことを……。