第48章 欠けた力
覚えている。
そう答えたモモに、ローは内心安堵した。
あの時の言葉が口からでまかせだったのなら、忘れていたかもしれない。
キッドやホーキンスに心が移ったのなら、誤魔化していたかもしれない。
そのどちらもしなかったモモに対して、期待をしてしまうのは しかたないことだろう。
けれどまず、確認しておかなければならない。
その心はまだ、こちらを向いているのかを。
「お前、どういうつもりであんなことを言った。」
あんな状況で、捨て台詞のように言ったことは、どうしても許せない。
なぜなら、あの言葉はローが心から欲してやまないものだったから。
それを理解しているのか? という意味合いを込めて尋ねたが、モモはなぜだか怯えたように肩を震わせた。
「どういう、つもりって…?」
眉尻を下げながら、おずおずと見上げてくるモモに、下腹部からなにか熱いものが込み上げてくる。
欲しくて欲しくて堪らなかった彼女が、離れ離れになっていた彼女が、今ここにいる。
腕を伸ばせば、届く距離に。
モモはなにも感じなかったかもしれないが、自分は違う。
同じ場所に立ち、同じ空気を吸っているだけで、こんなにも幸福感に包まれる。
(待て、今は違うだろ……。)
今は緊張感をもってモモの真意を確かめなければならない場であって、こんな満たされた気持ちになるとか、ましてやよからぬ欲望に負ける場面でもない。
ひっそりと息を吐くと、それに気づいたモモの瞳が僅かに揺れた。
だから、その目をやめてほしい。
そういう小動物みたいな反応をされると、どうしても噛みつきたくなる。
怯えたり、逃げ出したりすると、どこまでも追い詰めたくなるのが猛獣の性だ。
ああもう、話が進まない。
「だから、あの時の言葉をどういうつもりで言ったのかと聞いてんだ。」
もし真意だったのだとしたら、その柔らかな喉に噛みついて、逃がしてやらない。
もし嘘だったり心移りしたのなら…。
それでもやっぱり、逃がしてやらないけど。