第48章 欠けた力
ローと共に宿屋の外に出ると、少しだけ冷たい夜風が肌を撫でた。
昼間の騒動などなかったかのように、とても静かだ。
けれど昨夜と違うのは、家々に灯る明かりが、心なしか温かく思えること。
きっと、どこの家の中でも、病に怯えなくてすむ時間を、家族と一緒に噛みしめていることだろう。
静寂に包まれた村を出て、2人は海へとやってきた。
海を見るのも、ずいぶん久しぶりな気がする。
押し寄せる波音を聞いていると、猛烈に黄色の潜水艦が恋しくなってきた。
近いうちに、再びこの海へ旅立つだろう。
けれどその前に、話しておかなければならないことがあった。
「あの、ロー…。」
ずっと黙りこむ彼に焦れて、声を掛ける。
すると、ローがようやく口を開いた。
「お前、最後に俺に言ったことを、覚えているか?」
「え……?」
すっかり叱責されると思っていたモモは、目を瞬かせた。
最後に言ったこと?
わたしが、ローに言ったことは…。
「……ッ」
思い出した瞬間、カァッと顔が赤くなった。
忘れるはずがない。
でも…。
(今、それを聞くの…!?)
だって、心の準備ができていない。
なんて言われるのかな。
もしかして、もうローは…。
底知れぬ恐怖を感じて気がついた。
想いを打ち明けるのって、答えを聞くのって、こんなに怖いんだ。
それなのに、ローは何度も“好きだ”と言ってくれた。
そして何度も、モモは“受け入れられない”と跳ねのけた。
これくらい、なんだ。
ローが幾度となく受けた傷に比べたら、こんな恐怖、なんともない。
ローが何度も気持ちを伝えてくれたように、こうして迎えにきてくれたように、今度は自分が何度でも伝え続ければいい。
幸い、ひたすら想い続けることは慣れている。
だから、はっきりと言おう。
「覚えているわ。」
6年前のことも、今までのことも、あなたと過ごした日々は1日だって忘れない。