第48章 欠けた力
村の宿屋には、メルディアの言うとおりシャチとペンギンの手によって、村中の病人が集められていた。
「……あッ、モモ!」
「モモ、無事だったんッスね!」
モモの姿を見つけた2人は、感極まったように近寄ってくるが、それをローは制した。
「再会を祝うのは後だ。まずはこのバカな状況をどうにかする。」
「…ヘイ、キャプテン!」
名残惜しそうな視線を向けてくるが、ローが言うことはもっともなので、2人は手際よくオペの準備を始める。
「ロー! 言われたとおり、大まかなトリアージは済ませておいた。」
次に駆け寄ってきたのはコハクだ。
コハクには、トリアージを任せていた。
トリアージとは、多くの負傷者がでた時、負傷具合によって治療の優先順位を決める救命作業である。
いくらローでも、大勢の患者をいっぺんにオペすることはできない。
「ああ、よくやった。時間を掛けているヒマはねェ。さっさと片づけるぞ。」
「うん。」
すっかりローの助手が板についたコハクが、ちらりとモモに視線を向ける。
その瞳が、安堵に揺れた。
たったそれだけで、モモにはコハクの気持ちが痛いほどわかった。
すごくすごく、心配をかけたんだ。
ごめんね、ありがとう。
その気持ちを込めて、愛しい我が子に向かって大きく頷いた。
問題は山積みだけど、今は目の前の村人を助ける方が先だ。
喜びを分かち合うのも、お叱りを受けるのもお預け。
ここは戦場だ。
けれどここでは、武力のないモモでも闘うことができる。
「ぼさっとするな、動けるヤツは働け! ちんたらしてると仲間が死ぬぞ。」
新たな不審者の登場に、遠巻きに眺めていた村人が、その言葉で泡を食ったように動き出す。
袖を捲り、髪をしばり、モモはローの後を追って戦場へと赴いた。