第48章 欠けた力
久しぶりの2人の時間だったというのに、メルディアに邪魔をされて、ローは不機嫌を隠さず眉間のシワを深くした。
もっとも、彼女に邪魔をされる前の雰囲気は、甘いものではなかったが。
できることなら、「会いたかった」と囁いて抱きしめたかった。
しかしその前に、ローには確かめなければならないことがあったのだ。
(まさかとは思うが、ユースタス屋やバジル屋に惚れた…なんてことはねェだろうな。)
モモは終始キッドに気遣わしげな視線を送っていたし、ホーキンスとは妙に親しげだった。
惚れっぽい女とは真逆のところにいるモモではあるが、人間、追いつめられた状況に陥ると、身近な異性に恋情を抱きやすい。
吊り橋効果と似たようなものだ。
そもそも、別れ際の“告白”だって、今考えれば疑わしい。
モモは自分を好きだと言ったが、そんな素振りを見せたことがなかった。
それどころか、言い寄る自分を常に突き放す始末。
最後だと思ったから、好きでもないのに義理立てしたんじゃないだろうか。
そうだとすれば、なんとも残酷な女だが、モモは時折とんでもない悪女になるから安心できない。
「ああ、そうだわ。シャチたちが病人を宿屋に集めて待ってるのよ。早く行きましょう!」
まさに今、足止めをしていたのは誰だ…と聞きたくなる発言だが、メルディアは構わずモモの腕を引っ張り、そのまま村へ歩きだしてしまう。
引きずられるように後をついていくモモが、なにかを言いたげにこちらをちらちらと見る。
その視線がやけに不安そうで、言いづらそうで、ローは自分の懸念が現実味を帯びたように感じた。
もし、本当にそんなことを言われたらどうしようか。
考えるまでもなく、どうしようもない。
今さら自分は、モモを手離せないのだから。
全面戦争する相手が、海軍から海賊に変わるだけだ。