第48章 欠けた力
オペは問題なく進んだ。
大きく膨らんだ腹の中には、キラーの命を吸って育った寄生虫が住み着いていた。
肥大した寄生虫は、臓器に複雑に絡みついていて、本来であれば臓器ごと摘出するしか手がない。
しかし、ローは史上最強の外科医。
血管一本傷つけることなく、巣くった寄生虫を摘出した。
もはや、神の領域である。
いつか、この人の隣に並べる日がくるのだろうか。
今回、モモは本当になんの役にも立てなかった。
泣いて、叫んで。
そんなことは子供でもできる。
あの時、滅びの歌さえ唄えていれば…──。
バラバラになったキラーのパーツが、ぴたりと元の状態に戻る。
オペが終了した合図に、モモは顔を上げた。
「……これで終わりだ。症状が進行していたから、助かるかどうかは体力しだいだが、まあ…なんとかなるだろう。」
なにせ“殺戮武人”と呼ばれる男だ。
体力だけは有り余っている。
「そう…か。」
医者のお墨付きに、キッドは安堵の息を吐く。
キッドが安心の表情を見せたのは、これが初めてだった。
「……助かった。」
「やめろ、ただの気まぐれだ。」
すっかり膨らみがなくなった腹部を見て、モモも心の底から安心する。
モモはキッドたちの仲間ではないけど、一時とはいえ同志だったから。
(そういえば、ローはどうしてここに…?)
今さらながら、奇跡みたいな再会の理由を考える。
当然、モモを探しにきてくれたはずだが、なぜ海軍の船でなく、この島にいることがわかったのだろう。
夢だと思っていた現実が、じわじわと身にしみてきて、先ほどまでとは違う喜びが溢れる。
(会えた…、また……。)
二度と会えないことを覚悟した。
あの別れから、こんなにも早く。
張りつめていた緊張の糸が切れそうになり、モモはぎゅっと奥歯を噛む。
そうしなければ、泣いてしまいそうだから。
身勝手で、自己満足な決断だった。
ローをどれだけ傷つけたことだろう。
それでも、申し訳なさより喜びが勝ってしまう。
やっぱりわたしは、キッドが言うように自分勝手な人間なんだ。