第48章 欠けた力
エキノコックス症を治す唯一の方法は、外科手術。
自分には無理だと諦めていた。
でも、目の前に現れたこの人は天才外科医。
絶体絶命だと思っていたのに、素晴らしいタイミングで登場してくれたローを、まるで物語のヒーローを見るような気持ちで見つめた。
しかし、そんなモモとは反対に、ローは期待を削がれたような…どこかガッカリしたような目で見返してくる。
「お前…、最初にでてくる言葉がそれなのか?」
「え…?」
本気で首を傾げるモモに、ローは盛大にため息を吐く。
この野郎。
コイツ、今がどれだけ大切な再会か、わかっているのか。
海軍に攫われたんだぞ。
二度と会えなかったかもしれないんだぞ。
あの、悔しさに塗れた別れを覚えているのか。
家の戸を開けるまでの、胸の高鳴りを返してほしい。
まさか、別れる時の言葉まで、忘れたとか言わねェよな?
忌々しく睨んでいたが、こちらを見つめ返す顔が清々しいくらい邪気がなくて、もう どうでもよくなってきた。
「ああ、もういい…。お前に期待をした俺がバカだったんだ。」
彼女が期待通りに動かないことは、今までの時間が証明してくれている。
いつだってローは、モモに振り回される運命にある。
なんのことかわからないモモは、ひたすら戸惑っていた。
知らん、困っておけ。
開口一番、他の男の名前を出されたこっちの気持ちもわからない女なんて…。
「トラファルガー。」
荒んでいた気持ちから現実に戻させたのは、キラーの横に佇むキッドだった。
そもそも、なぜここにキッドとホーキンスがいるのか。
「キラーを助けてやってくれ。」
「……。」
「……頼む。」
人一倍プライドが高いこの男が“同期”である自分に頭を下げた。
海賊同士で、いずれは争うであろう相手。
助ける義理はない。
「……ロー。」
モモがキッド側なのも気にくわない。
けれど…。
「…言っておくが、気が向いただけだ。」
断じてモモに頼まれたからではない。
オペをするのは、気が向いただけ。
数年前、麦わらのルフィを助けた時のように。
「……恩に着る。」
着なくていい、そんなもの。