第2章 解かれた封印
海軍には、賞金を懸けず、世には公表しない手配書が存在する。
通称『ホワイトリスト』
公表しない理由は、海賊やその他の機関に存在を知られ、横取りされることを防ぐためである。
海兵たちはホワイトリストを暗記し、任務中に発見した場合は速やかに捕獲することが義務付けられている。
ホワイトリストには、懸賞金の代わりにE~Sまでのランク付けがされており、捕獲者にはランクに応じて多大な評価が与えられる。
『奇跡の歌い手 セイレーン』
古来より受け継がれし異能をもつ一族。異能は一族の女性にのみ引き継がれる。
遥か昔に絶滅したと思われていたが、12年前に生き残りを確認。
黄金に光る緑色の瞳が特徴。
能力の可能性は未知数。活用方法しだいでは、兵器にもなりうる。
ランク:S
モモは窓から飛び出し、大雨の中、バシャバシャと走った。
しかし、家の周りはとっくに包囲されていて逃げ場などなかった。
「諦めろ、お前はSランクだ。発見した以上、逃がすことなど無い。」
わかっていた。
海軍はどんな海賊よりもたちが悪い。
モモの存在価値を知っているし、組織ぐるみで追ってくる。
それでもモモがこれまで見つからずにいたのは、モモに知恵があったわけでも、武力があったわけでもない。
ただずっと、息を潜めていたからだ。
声を封じ、歌を禁じ、そうやって生きてきたから、この12年間捕まらずにすんだ。
けれど今日、その封印を解いてしまった。
その甘さが自分自身を追い詰めたのだ。
逃げることを止めないモモを海兵が後ろから掴んで倒し、地面に押し付けた。
ぬかるんだ水溜まりがモモの身体を汚す。
「出来れば手荒な真似はしたくない。大人しく捕まれ。」
一軍の指揮をとっていた男が、モモを縛り上げるように命じた。