第48章 欠けた力
メルディアの言う不思議な力というのが、どんなものかはわからない。
けれど、ローはそういった精霊やら神々の類は信じない。
この目で、見ない限り…。
(俺が見た女は、誰だ?)
金緑色の瞳は、セイレーンの象徴。
モモと同じセイレーンで、モモによく似た顔立ち。
導き出される答えは、ひとつだった。
モモの母親は、彼女が幼い頃に亡くなったという。
ちょうど、モモがコハクくらいの年頃に。
だとすれば、モモの母親の年齢は、20代半ばくらいか。
まさに今、ローが目にした女のように。
(バカバカしい。そんなこと、あるものか。)
頭では否定するものの、実際に見た幻を忘れられない。
「ロー、急に黙ってどうしたんだよ。指輪が気になるのか?」
「……ああ。」
気にならないわけがない。
指輪は今も、なにかを訴えるように光り続けているのだ。
なにを訴えたい。
あの女は、なにを言っていた。
あの子に、歌を唄わせないで…そう言ってなかったか。
あの子とは誰だ。
唄わせてはいけない理由はなんだ。
聞きたいことが山ほどあるのに、答えてくれる人がいない。
けれど、ひとつだけわかっていること。
行かなくては。
今すぐに……!
「悪い、他の連中のオペは後回しだ。」
「え…、どうして?」
カトレアの表情が悲しみに曇る。
きっとモモは、この少女にこんな顔をさせたくはないだろう。
(だが、俺はモモじゃねェ。)
彼女の願いは叶えたい。
けれど、ローには願いよりも大切なものがある。
モモ自身だ。
幻覚でも、思い違いでも構わない。
モモに危険が迫るなら、モモに自分が必要なら、なにを捨てても真っ先に向かわなければ。
あとでそれを責められたしても、後悔するよりずっといい。
彼女の危機を救うのは、自分でなくては許せないから。
「モモの居場所はどこだ。」