第48章 欠けた力
あっという間に終わったオペを前に、コハクは絶句する。
ローに弟子入りしてしばらく経つが、本格的なオペを見たのは、これが初めてだ。
「…寄生虫を臓器から除去すれば、オペは終いだ。だが、発症から時間が経つほどデカくなるし、複雑に絡みついて切り離しが難しい。」
師匠らしく説明してくれるが、オペの仕方はとてもじゃないがマネできない。
「あとで能力を使わずに施術してやるから、参考にしろ。」
そのへんはローもわかっているようで、きちんと“普通の人間バージョン”も教えてくれるらしい。
なににせよ、時間との勝負ならば、他の患者も早く診た方がいい。
しかし、気になるのはモモの行方だった。
薬剤師であることに信念を持つ彼女が、打つ手がないからといって、病人を放置するだろうか。
「カトレアに母さんの居場所を聞いてみるか?」
顔見知りであることは確かなのだ。
居場所を知っている可能性が高い。
「そうだな…。」
けれど聞いてしまったら、ローはすぐにでもモモのもとへ行きたくなってしまう。
ここは、モモが助けたいと願う患者で溢れている。
ならば自分は、ここでオペをし続けるべきなのではないだろうか。
寄生虫を取り出した指先を、清潔な布で拭った。
どちらにしても、この家にはもう患者がいない。
玄関の戸を開けると、ベポの隣で祈るように俯いていたカトレアが顔を上げる。
「おじさんとおばさんは…!?」
「オペは終わった。今は眠っているが、数日もすれば何事もなかったように動ける。」
なにせ、開腹した傷すら残っていないのだから。
「よ、よかった…ッ」
安心したカトレアは、腰が抜けたようにへなへなと座り込んだ。
「わ…、大丈夫かよ。」
「うん…、嬉しくって…! あの、他のみんなも診てもらえますか!?」
そろそろシャチたちが、患者を集め終わった頃だろう。
しかし、カトレアに頷こうとした瞬間、くらりと目眩がした。
『この歌は、絶対に唄ってはダメなのよ…。』
頭の中で、そんな言葉が響いた。