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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第48章 欠けた力




船を降りた一行は、周囲を警戒しつつも海沿いを進んだ。

「なんか…、気が抜けるくらい静かッスねぇ。」

そう言いながらもペンギンは周囲への注意を怠らないが、おそらく、全員が抱いている感想だ。

上陸してしばらく経つのに、海兵どころか、村人ひとりとも出会わない。

「おかしいなぁ。おれが双眼鏡で見た時、確かに村があったのに。」

「見間違えたんじゃねぇのか?」

「そんなことないよ! …たぶん。」

自信がなくなって落ち込んでくるベポに、コハクは苦笑しつつ「オレも見たよ」と加勢しておく。

村の方向へ歩いているので、見間違いでないのなら、そろそろ人と出会ってもいい頃である。


「きゅい…?」

コハクの肩に乗っていたヒスイが、ぴょんと飛び下りて、すぐそこの茂みへと近づく。

「どうした、ヒスイ。」

問いかけると同時に、茂みがガサリと音を立てた。

「「……!?」」

瞬間、その場の全員に緊張が走り、臨戦態勢をとる。

が、しかし…。

「……キューン。」

顔を出したのは、なんとも可愛らしい獣だった。

「子ギツネ? かーわーいー。」

猫なで声を出したのはシャチ。
…気色悪い。

「よせ、近づくな。…ユキギツネだ。」

しゃがみこんで近づこうとするシャチを、素早く止めた。

「ユキギツネ? なんスか、危険なヤツ?」

「直接的に危害を加えられることはねェ…。」

だが、このキツネには危険な一面がある。


「お前ら、この島で生水を口にするな。」

「生水? なんで??」

「死ぬ可能性がある。」

「「ええッ!」」

全員が子ギツネから距離を取り、コハクはヒスイを抱き上げた。

ユキギツネがいる島では、生水を口にしないことが常識だ。

しかし、その常識が広まっていないのは、ひとえにユキギツネの数が少なく、認知度が低いことに他ならない。

毛皮の美しさから乱獲され、今や絶滅危惧種となっている。

そんなキツネが冬島ですらないこの島にいるのは、きっとどこからか密輸されたのだろう。

その危険性も知らずに。

「まったく、どこのバカだ。」

懸念すべきことが、ひとつ増えた。



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