第47章 病魔の住処
大きなヒントは、この島に来たばかりの頃、すでに見つけていた。
真っ白な毛並みを持つ、美しいキツネ。
親子で仲良く戯れる様子を見て、心を和ませたっけ。
そのキツネが、いつか読んだ“危険生物について”の本に記載されていることなど、すっかり忘れて。
海賊に襲われたサーカス団。
そこで飼育されていた虎が森に住み着いていた。
どうして考えなかったんだろう。
森にいる動物が、島固有の動物とは限らないことを。
「この寄生虫が、キラーや村の連中の病の原因だってのか。」
キッドの問いにモモは頷く。
だけどキッドは、不可解そうな顔をする。
モモの様子がおかしいからだ。
「これは、なんという病なのだ。」
同じくモモの様子が気になっていたホーキンスが尋ねた。
この病。
ずっと探していたこの病は…。
「……エキノコックス症よ。」
エキノコックス症とは、キタキツネなどの獣の糞に混じった寄生虫が、なんらかの方法で人間の口に入り、臓器に寄生する病だ。
主に肝臓へ寄生するが、稀に脳や心臓にも寄生する。
症状は黄疸や腹部の張り。
たまに咳や血痰などの症状も現れ、しだいに症状は悪化。
やがて死に至る病だ。
だけどエキノコックス症は、発症するまでに5年ほどの年月がかかる。
なぜ、こんな短期間で発症したのか。
答えは、モモが見た白いキツネ。
純白な美しいキツネは、ユキキツネという。
ユキキツネは、その美しい姿とは裏腹にとても危険な動物だった。
凶暴というわけではない。
ユキキツネから移るエキノコックス症は、発症期間が極端に短いのだ。
あの本に、そう書かれていた。
けれどユキキツネは、冬島に生息する珍しいキツネだ。
本来、春島であるここにいるはずもない。
おそらく、珍しさに惹かれたサーカス団が飼っていたのだろう。
その危険性を理解していたのかは、もうわからない。
だけど、その結果、こんな事態を招いたのだ。