第47章 病魔の住処
海賊に襲われ森に逃げたユキキツネは、川辺に住み着き、そこで糞をする。
すると、上流から寄生虫が流れてきて、川の水を飲んだ人の口に入る。
ユキキツネが生息している冬島では、生水を飲まず、必ず煮沸をするのが常識だ。
もし水に寄生虫が混じっていても、煮沸をすれば殺すことができるから。
けれど、この春島にはそんな知識はない。
当然だ。
そんな脅威もなかったのだから。
さらに言えば、村は食料が不足していた。
だから村人たちは、少しでも空腹を紛らわせようと、水をたくさん飲んだのだ。
それで感染率が上がった。
免疫力の低い乳児が無事だったのは、生水を飲むことがないから。
カトレアが無事だったのは、地下水である井戸の水を飲んでいたから。
キッドやホーキンスが無事だったのは、酒ばかり飲んでいたから。
同じ生活を送っていたはずのキラーは、川で顔を洗う時に感染したのだろう。
伝染病でも、毒でもない。
答えがわかってから考えれば、こんなにも簡単なことだった。
「原因がわかったんなら、なにを泣くことがある。早くキラーの治療をしろ!」
急かすキッドに、モモはゆるりと首を横に振った。
わかりたくなかった。
原因なんて。
だって、エキノコックス症の治療法は…。
「治療には、オペが必要なの…。」
虫下しもなにも効かない。
唯一の治療法は、寄生虫を取り除く外科手術。
わたしは、医者じゃない。
これまで何度、口にした言葉だろう。
薬剤師であるモモには、開腹や開頭など、できるはずもなかった。
はらはらと涙が零れる。
やっとわかったのに、助けられない。
命が消えていくのを、見ていることしかできない。
どうして、どうして…!
助けるって、約束したのに。
キラーを、ベンを、村人たちを。
ここは、悪魔の住処だった。