第47章 病魔の住処
キッドとホーキンスを伴って、モモは村の“とある場所”を訪れていた。
まだ太陽は高いはずなのに、どこか薄暗い雰囲気を漂わせている。
ここには、村人は誰ひとりいなかった。
きっともう、そんな余裕もなくなっているのだ。
そのことに、モモは心底安堵していた。
もし村人が、モモが今からやろうとしていることを知ったら、怒るどころの騒ぎじゃないと思う。
湿り気を帯びた大地を踏みしめ、きつく拳を握った。
ここは、死者が眠る場所。
墓地だ。
「…家で待っていたらどうだ。確認は俺がやっておく。」
地面を見つめたまま、動けずにいるモモを気遣って、ホーキンスがそう告げた。
「いいえ、大丈夫です。」
ホーキンスの言葉に甘えたいという気持ちは、正直ある。
だけど、これはモモにしかわからない。
それになにより、モモがやらなくてはいけないことだ。
逃げちゃ、いけない。
「なら、さっさと済ませろ。こうしている間にも、キラーは苦しんでるんだ。…そこをどけ。」
キッドが責めるような口調で言うのは、少しでもモモの罪悪感が和らぐように配慮しているからだ。
以前はわからなかったけど、今ならわかる。
モモを押しのけるようにして、キッドは墓石の前に立つ。
その手には、大きなスコップが握られていた。
ザクリ
スコップの先端が、湿った土に深々と突き刺さる。
ザクリザクリ
死者が眠る土を、キッドは躊躇いなく掘り上げた。
手伝わなくちゃ…と思う隙も与えないくらいのスピードで、大地に穴が空いていく。
ガツリ
なにか硬いものにぶつかる音が響く。
掘り進めて数分。
だけど、モモにはそれが恐ろしく長い時間に思えた。
“それ”を取り出すべく、ホーキンスも動いた。
穴の中に腕を入れて、重たそうな“それ”を引きずり出す。
今が夜だったら良かったのに。
そうしたら、再び陽の光を浴びせずにすんだ。
眠ったままでいられたかもしれない。
(……ごめんなさい。)
無意識に、胸の前で手のひらを組んだ。
ごめんなさい、起こしてしまう。
深い深い眠りから。
掘り起こしたのは、死者が眠る棺だった。