第47章 病魔の住処
ベンが倒れたのは今朝のことだったが、実は2~3日前から体調不良を感じていたという。
軽い腹痛や、倦怠感。
具合が悪いとは思いつつも、疲れのせいだと決めつけていた矢先の出来事だった。
「なにか、普段と変わったものを食べたりしませんでしたか?」
「食うもんか。ただでさえ、食い物が少なくて困ってんだ。」
だからこそ、普段は食べない野草などを食べる可能性もあったが、そんなことはしていないとキッパリ否定される。
「どこか特別な場所へ行ったりもしていませんか?」
「余計な体力を使いたくねぇんだ。畑くらいしか行ってねぇよ。」
毎日手伝っていたカトレアのリンゴ畑にも顔を出せないくらい、疲れが溜まっていた。
村がこんな状況なのだ、無理もない。
話を聞きながら、モモはできる限りの診察をした。
黄疸とお腹の張り以外、特に目立った兆候はなく、咳や血痰も出ていない。
そういえば、キラーも咳をしていない。
必ずしも肺を病むというわけではないようだ。
「あぁ…、俺も村のみんなと同じように、腹や頭が膨れて死ぬんかな。」
「え……?」
腹や頭が、膨れて死ぬ?
「知らねぇのか。死んだヤツらはみんな、腹とか頭が異常に膨れて死ぬんだよ。」
絶望的な発言に、後ろにいた妻とカトレアがしゃくりあげたが、モモは考え事に夢中で、慰めることができなかった。
頭?
腹部はともかく、どうして頭が腫れるのだろう。
モモは村人の遺体を見ていない。
ただでさえ、険悪な雰囲気が漂っているのだ。
遺体安置所になど、足を踏み入れられるわけがなかった。
(なんだろう。わたし…、なにかを見落としてる。)
でも、なにを?
伝染病でも、毒でもなくて。
それなのに、こんなに大勢の人たちが同じ病で苦しんでいる。
この奇病を、モモはなぜか知っているような気がした。
『予知夢とは、そういうものだ。』
急に、昨夜のホーキンスの言葉が蘇った。
予知夢って、わたしが夢で見たのは…。