第47章 病魔の住処
カトレアに案内されて、すぐにベンの家へ向かった。
数日ぶりに訪れる村は、以前よりも明らかに静まり返っていて、どこか不気味だ。
「おねえちゃん、あそこがおじさんの家だよ!」
そう言うと、カトレアは家の戸を叩き、先ほどと同じように返事を待たずに中へ飛び込んだ。
「おばさん!」
「……カトレア!」
ベッドでベンを看病していた妻が振り返った。
ベンは妻と2人で暮らしている。
子供には恵まれなかった。
だからなおさら、夫妻は両親を亡くしたカトレアを我が子のように可愛がり、愛情を注いだ。
夫妻を親のように感じているのは、カトレアとて同じ。
「もう大丈夫! 薬剤師のおねえちゃんを連れてきたよ。」
「薬剤師…?」
妻の縋るような視線がこちらに向く。
すると、ベッドで横になっていたベンが呻くように口を開いた。
「その女は、海賊じゃねぇか…。俺は、海賊の世話になんかならん…ッ」
睨みつける瞳は黄ばんでいる。
もう黄疸を発症しているんだ。
「そんなこと言わないで、おじさん。死んじゃったらどうするの!?」
それは、冗談なんかじゃなかった。
現に村人はバタバタと命を落としている。
発病後、回復に向かった患者はいない。
このままいったら…。
最悪の事態を想像し、みるみるうちにカトレアの瞳から涙が溢れた。
「お、おじさん。イヤだよ、私、もうひとりになりたくない…ッ」
どんな時も明るかったカトレアが、ついに泣いた。
それは、ベンを動揺させる十分な理由だった。
「わ、わかった…! カトレア、泣くな。その女の診察を受ける!」
狼狽する姿は、娘の涙に右往左往する父親そのものに見えた。
(……死なせたくない。)
ううん、死なせちゃいけない。
両親を亡くしたモモに新たな家族ができたように、カトレアにとっての家族が彼ら。
これ以上、カトレアの家族を減らしてはいけないんだ。
(ぜったいに、助ける…!)
目元を腫らしたカトレアに手招きされ、モモはベンのベッドへと近づいた。