第47章 病魔の住処
事態が大きく動いたのは、夜明けのことだった。
あの後、結局あまり寝られなかったモモは、早めの朝食を用意しようとしていた。
そんな時、突然玄関の戸が叩かれ、応える間もなく誰かが飛び込んできた。
「…カトレア?」
キッドとホーキンスは警戒の色を見せたが、家に入ってきたのはカトレアだった。
「どうし…──」
「おねえちゃん! 助けて!」
モモの言葉を遮るようにして、彼女は叫んだ。
よく見れば、顔は青ざめて冷や汗を流している。
「カトレア、具合が悪いの!?」
まさか、発病してしまったのか。
どきりと心臓が嫌な音を立てたが、カトレアは頭が取れそうな勢いで首を横に振った。
「違う、私じゃないの! ベンおじさんが…!」
ベンおじさん。
確か、この前川辺で会った中年の男性。
カトレアをこの村でもっとも可愛がっている人物だ。
「あの人が、倒れたの?」
カトレアは震えて口を開かなかったけど、涙をボロリと零して頷いた。
1番近しい人が倒れたのだ、ショックを受けるのは当たり前だ。
そこで、ふと気がついた。
(違う、爆発したんだ。)
カトレアはこの村に住んでいて、村人全員と知り合いだ。
見知った人々が苦しみ、息絶えていくのを間近で見て、冷静でいられるわけがない。
それでも、彼女が今まで明るく振る舞っていたのは、「大丈夫だ」って自分を奮い立たせるためだったのだろう。
それがついに、崩れた。
(バカ、わたし…。どうして気づいてあげられなかったの?)
こんなに小さい子が、こんなに頑張っていたのに。
「おじさんの家に、案内して。」
倒れたばかりなら、なにか手が打てるかもしれない。
「おい、待て。あの男はお前を敵だと思ってんだぞ。会いに行っても追い返されるだけだ。」
キッドは宿屋での出来事を思い出して、心配してくれているのだろう。
「それでも、行かなくちゃ。追い返されても心からお願いすれば、診察させてもらえるかもしれない。」
カトレアのためだけじゃない。
発病したばかりの患者を診ることは、モモにとっても重要なこと。
「……チッ。」
言っても聞かないと判断したのか、キッドは嫌そうに立ち上がった。