第47章 病魔の住処
「……は…ぁッ」
息継ぎをするようにして、目を覚ました。
ドクンドクンと、心臓が嫌な音を立てている。
ゆっくりと身体を起こし、いつからか握りしめていた拳を開く。
力いっぱい握っていたからだろう、手のひらに爪の痕がくっきり残っていた。
あの冷たい体温は、残っていない。
悪い、夢だ…。
のろのろと視線を上げて窓の外を見ると、夜の帳は未だ降りたままだ。
キッドはキラーのベッドの傍で座りながら眠り、ホーキンスの姿は見えない。
じわりと掻いた寝汗で背中が濡れ、下着が張りついて気持ち悪い。
外の風に当たりたくて、モモは布団から抜け出した。
キッドを起こさないよう、物音を立てずに外へ出ると、爽やかな風が頬を撫でた。
草木の擦れる音や、虫の鳴き声に耳を傾けていると、しだいに気分が落ち着いてきた。
「どうしてあんな夢、見たんだろう。」
忘れもしない。
あれは、モモが自分の無知さを呪った日だ。
あの日から、薬のことだけじゃなく、幅広い知識を得ようと頑張ってきた。
「だけど結局、病気の原因ひとつわからないなんて…。」
ため息を吐きながら、キラキラと瞬く星空を見上げた。
夢の中で、キッドに言われた言葉を思い出す。
自分の身代わりに、命の危機に陥ったロー。
そんな彼を前に、どうしてそんなことをしたのかと責めた。
ローが死ぬくらいなら、自分が死んだ方がマシだと。
けれど振り返ってみれば、それはまさに自分がしたことではないか。
ローのために、みんなのために、海軍に捕まることを選んだ。
それが1番いいんだ、みんなを助けられるんだって納得して。
だけど、それで満足するのはモモだけだ。
あの時、ローは自分のことを許さないだろうと思っていたけど、実際逆の立場になってみれば、想像以上に辛くて辛くて…世界が壊れそうになる。
「じゃあ、どうすればよかったの?」
無謀を承知で逃げ出すべきだったのか。
仲間を失うかもしれないけど、闘いを挑むべきだったのか。
なにが正解がわからなくて。
それで、わたしは…。
1番楽な道を選んだんだ。
自分だけが満足する、そんな道を。