第47章 病魔の住処
ゆらり、ゆらりと身体が揺れる。
気がついたら船の上にいた。
懐かしい、思い出の船。
ぼんやりとした意識の中、悟る。
これは、夢だと。
乗っているのは、ハートの海賊船。
だけど、すっかり馴染んだ潜水艦ではなく、もっと昔の、あの頃の海賊船。
こんな夢を久しぶりに見ているのは、やはり恋しいからなのだろうか。
早く目を覚まして現実に向き合わなくちゃ。
そうは思うけど、懐かしい我が船に縋りたいような気持ちも生まれてしまう。
少しだけ。
少しだけだから…。
ここでなら、ローに会えるかもしれない。
そんな期待を抱きながら、歩みを進める。
デッキに行くと、人影を見つけた。
誰かが、寝ている。
(ロー…。)
パーカーとジーンズ姿のローが、デッキにごろりと寝転がっている。
夢だとわかっていても、胸が震えた。
無意識に歩みが早くなる。
けれど、あと数歩で触れ合える距離で足が止まった。
(え……?)
ローのすぐ傍に、得体の知れないものが転がっていたからだ。
赤くて、透明質なブヨブヨした物体。
ううん、得体の知れないものじゃない。
あれは…。
クラゲだ。
忘れもしない、猛毒のクラゲ。
さっと血の気が引く。
よくよくローを見てみると、苦しみ呻いている。
(ロー…ッ!)
慌てて駆け寄ったけど、異変に気がついた。
(声が、出ない…。)
そうだ。
わたしは、声を封じてて…。
(誰か、助けて!)
叫びたくても、声が出ない。
唄わなくちゃ、唄わなくちゃ!
毒が身体中を巡る前に、歌で癒さなきゃいけない。
だけど、それでも声が出なかった。
抱きしめたローの身体が、どんどん冷たくなっていく。
…これは夢だ!
そう理解していても、絶望という恐怖が消えない。
体温が1℃下がるごとに、世界が崩れていく気がした。
これが、死か。
胃の奥が熱くなって、吐き気がする。
(置いてかないで、お願いだから…!)
抱きしめた身体が、無慈悲に冷えていく。
どうしてわたしを庇ったの?
こんな思いをするなら、わたしが刺された方がずっと良かった!
どうしようもなくて、ローを責めた。
すると、今まで聞こえなかった第三者の声が落ちてくる。
『俺は、お前みたいな自分勝手なヤツが嫌いだ』
キッドの声に、モモは愕然と空を仰いだ。