第47章 病魔の住処
グルル…と喉を鳴らし、虎が一歩近づいた。
それを見て、ホーキンスはモモの肩を掴み、素早く自分の背後へと押しやる。
「…下がっていろ。」
ケガでもされては困る。
ホーキンスは腰に帯刀した剣に手を伸ばした。
無闇に近寄ってきたコイツが悪い。
しかし、剣の柄を握った瞬間、第三者の声が響いた。
「待って!」
叫ぶように止めたのは、少し離れたところから慌てて駆け寄ってきたカトレアだった。
「殺しちゃダメ…!」
そう言って彼女は、虎の首に抱きつく。
「カトレア、危ないわ! 離れて…ッ」
小さなカトレアは、きっと一噛みで殺されてしまう。
焦って手を伸ばしたが、その状況がおかしいことに気がつく。
ゴロゴロ…。
なんと、虎が猫のように喉を鳴らし、カトレアに甘えている。
「よしよし。」
そんな虎の頭を、カトレアは撫でてやった。
「…カトレア、その子と知り合いなの?」
虎と知り合いというのもおかしな質問だが、このホワイトタイガーは確かに彼女に懐いている。
「うん。大丈夫、この子は人を襲ったりしないよ。もともと、サーカスで飼われていた虎なの。」
カトレアの話によると、少し前、この島にサーカス船がやってきたそうだ。
しかし運悪く、この島には海賊がやってきた。
サーカス船も海賊の襲撃を受け、飼われていた動物たちのほとんどが逃げ出してしまったのだという。
「大半はこの森にいるんだけど、私たちもそこまで手が回らなくて、そのままになっているの。」
動物たちのためにも、他のサーカス船に引き取ってもらいたいが、村がこんな状況ではそんな手配も難しい。
けれどカトレアは、時折動物たちの様子を見にきていた。
サーカスで働いていただけあって、人にはよく馴れている。
「大きくてビックリすると思うけど、みんないい子たちだから安心して。」
そういえば、モモもこの島にきた時、珍しい動物と遭遇した。
あれは島の動物ではなく、サーカス船から逃げ出してきた子たちだったのか。
納得して頷くと同時に、ホーキンスも剣から手を離す。
ゴロゴロ…。
図体の大きな虎は、子猫のように甘え続ける。
白いふかふかな毛並みが、誰かの帽子を連想させた。