第47章 病魔の住処
ああ、そうだ。
コハクは1冊の本を手に取った。
「これでも読んでたら? 分厚いし、眺めるだけでも時間は潰れるだろ。」
なにしろこれは、モモが持っている本の中でも1番古いものだ。
コハクが生まれる前からあって、なんでもモモが以前海賊をしていた時に、実父から貰ったものだという。
思入れ深いこの本を、ハートの海賊船に持ち運んだのはコハクだ。
半ば無理やりモモを船に乗せたので、大切なものはすべて持ってきた。
けれど、その詳細はローに伏せておく。
そのくらいのことを気にするほど、ローの心は狭くないだろうが、あまりいい気持ちはしないと思うから。
手渡されたのは、一冊の植物図鑑だった。
年期が入ったもので、ページは黄ばみ、傷みも見られる。
けれどローは、その本を知っていた。
「これか…。いい、読んだことがある。」
ついでに言うと、以前モモの家で見かけたこともある。
「え、この本、読んだことあんのかよ。」
こんなマイナーな、それも植物図鑑なんてものをまさかローが読んでいたとは思わず、ひどく驚いた。
本好きだとは思っていたけど、どれだけ守備範囲が広いんだ。
心の呟きがそのまま表情に出ていたのだろう。
ローは顔をしかめて、「違う」と反論した。
「昔、持ってたんだ。」
「…違わないじゃん。」
「そうじゃねェよ。昔…、ガキの頃、俺の面倒をみてくれてた人が、医学書と間違えて買ってきたんだ。」
懐かしい。
あの頃の自分は、ちょうどコハクくらいの年頃で、同じように生意気だった。
「医学書と植物図鑑って…全然違うじゃん。どうやったら間違えられるんだよ。」
「ドジな人だったんだ。」
ドフラミンゴを倒したからか、今はこんなにも穏やかな気持ちで思い出せる。
あの時は、ローもコラソンも必死で。
ただ、必死に生きようとしていた。
もう二度と、大切な人など作れないと思っていた。
けれど、生きてみるものだな。
こんな自分にも、再び大切なものができるのだから。