第47章 病魔の住処
「…本でも読んでたらいいじゃん。ほら、気分転換にさ。」
自分自身で宥めるという方法をとっとと捨てて、コハクはモモの本棚を指差した。
モモもローと同じく本の虫で、彼女の部屋の本棚には、船の揺れをものともしないくらい、びっちりと本が詰まっている。
中には当然、ローが読んだことのない本もあるはずで。
しかし、コハクが考えたせっかくの提案も、ローにすげなく却下される。
「気分じゃない。」
じゃあ、どうしろと?
ふと、自分が落ち込んだ時、モモがどうしてくれたかを考えた。
彼女は優しく頭を撫で、それから抱きしめてくれた。
そりゃあな。
人肌は安心感を与えるって言うけれど。
それを自分がローにやれってか。
地獄か!
寄り添い合う絵面を想像して、ひとりでツッコミを入れる。
「…そう言わずにさ、面白い本が見つかるかもしれないじゃんか。」
結局、ローの手を引いて、無理やりに本棚まで連れて行った。
コハクの葛藤を汲んでくれたのだろう。
ローはため息を零しつつ、本棚の前に立ってくれた。
「ほら、なんか興味ある本ないのか?」
「そうは言ってもな…。」
本のカテゴリーが見事に偏っている。
薬学や医学の本ばかりじゃないか。
人のことを言えたことではないが、小説やら物語の類はいっさいない。
夢見がちなことを度々言うくせに、愛読している本は現実的なものばかりで、なんだかモモらしいと少し笑えた。
そんな苦笑をどう捉えたのか、コハクがむぅ…と困った声を上げた。
「医療関係の本ばっかだもんな。もしかしてローも読んだことのあるやつだったか?」
どうにかしてローの興味を向けようと、躍起になって本を探すコハクの姿に、すさんでいた心が静かに宥められた。
あんなに生意気だと思っていた子供を、今では可愛く思えるのだから不思議だ。
まあ、本人には口が裂けても言わないけれど。