第47章 病魔の住処
それもこれも、元凶は自分にある。
自分が弱かったから、モモを守れなかった。
そんなことは、百も承知である。
けれども、彼女を憎らしく思わずにいられないのは、モモがあんなにも簡単に“別れ”を選んだからだ。
彼女なりに葛藤しただろう。
それでも、許せない。
モモは自分を見くびっている。
自分の、想いを見くびっている。
それがなにより、許せなかった。
「償わせてやる。」
息が止まるほど、強く抱きしめて。
二度と離れないように、腕に囲って。
「逃げられると思うなよ、お前は俺の女だ。」
怯えるほど、強く愛そう。
コンコン。
狂気めいた独白を呟いたところで、部屋のドアがノックされる。
ローが返事をするまでもなく、ドアはすぐに開かれた。
「なんだ、やっぱりここにいたのか。」
ひょっこり顔を出したのは、愛しい彼女の面差しとまったく似つかない、目つきの悪い少年。
「なにか用か、コハク。」
モモの血を継いだ息子、そして自分の息子となった少年…コハクは、やれやれとため息を吐く。
「なにか用か…じゃねーよ。時間が空くたびに母さんの部屋に籠もってさ。みんなが気まずい空気を醸し出してるんだけど。」
「……。」
仲間たちにバレていたとは。
モモの部屋は自室から直接出入りできるため、誰にも気づかれていないと思っていた。
「イライラすんのはわかるけどさ。焦ったって船の速度は変わらないじゃないか。」
まったくの正論に、言い返す気も起きない。
「……コハク。」
ちょいちょいと手招きをして、彼を呼び寄せる。
「なんだよ。」
怪訝な顔をして近づいてきたコハクを見下ろす。
上から下まで、じっくりと眺めてから一言。
「お前、可愛くない。」
「……は?」
「どこかモモに似たところはねェのか。俺の気を紛らわせろ。」
なんという無茶ぶり。
だけどコハクは、いつものように噛みついたりはせず、口を真一文字に引き結んだ。
ああ、末期だな。
残念ながら、どんなに腕のいい医者でも治せない病。
これが恋患いとでも言うのだろうか。