第47章 病魔の住処
時は少し遡り、ここはハートの海賊団。
一時的にメルディアを仲間に加えた一味は、モモのビブルカードの示す方角へと進んでいく。
すでに数日が過ぎた。
ビブルカードは方角を示しても、距離までは教えてくれない。
いつ追いつくとも知れぬ焦燥感が、ローを苛立たせた。
苛立ちは、いつしか怒りへと変わる。
ソファーへ腰掛けていたローは、すぐ傍にある低めのテーブルにガンッと音を立てて片足を乗せた。
その衝撃で、白地に小花が刺繍されたテーブルクロスが捲れる。
控えめに女性らしさを主張するそれに、今 自分がどこにいるかを思い出した。
「……チッ。」
彼女のものを汚すわけにはいかないので、渋々足を下ろす。
いや、むしろ汚したい。
暴れまわって、この部屋のものを壊してやりたい。
そうすれば、この苛立ちは幾分か治まるのではないか。
そんなふうに考えてから、ローは大きく息を吐く。
治まるわけ、ない。
ローは今、モモの部屋にいる。
ビブルカードの導きで、確実に彼女との距離は縮まっているはずだが、おかしなことに海軍の船とは一隻も出くわさない。
サカズキのもとへ向かっているのなら、そろそろ海軍船を見かけてもいいはずなのに。
順調すぎる航海が、余計にローを苛立たせた。
そして自分は、気がつくと度々彼女の部屋に足を向けている。
モモだけがいない部屋は、愛用しているカモミールの香油の匂いが充満していて、落ち着くような、それでいてひどく虚しい気分になる。
そんな自分に、なおさら苛つく。
この気持ちの正体を、ローは知っているから。
「アイツ、どうしてやろうか。」
この俺に“寂しさ”なんてものを味あわせた。
なんて罪深い。
それだけじゃない。
こんなにも行き場のない怒りを持て余しているのに、自分は彼女のものをなにひとつ壊せない。
暴れ狂いたくとも、実際はテーブルクロスを汚すことすら躊躇われる。
「なにが、愛している…だ。」
ふざけるなと叫びたい。
愛しているなら、なぜ去った。
どうしてわからない。
お前のいない航海など、なんの意味もないのだと。