第10章 覚醒
シュルリとモモはメルディアを拘束していたロープを解いた。
「モモ…?」
「友達を縛る必要なんて、ないでしょう。」
「…!」
例え、アイフリードのためだったとしても、メルディアが友達だと言ってくれたことは嬉しかったし、モモは今でも友達だと思ってる。
だから、メルディアには悲しい思いも、辛い思いもして欲しくない。
「メル、取引をしましょう。」
「取引…?」
ええ、と頷き、メルディアを立たせた。
「コレを、あなたにあげる。」
「…!!」
差し出されたのは、愛しい人の心臓。
「でも、条件があるわ。」
「……なに?」
恋は失っても、愛は冷めていない。
彼の命と引き換えなら、自分はなんだってする。
「約束を果たして。」
「……え?」
「約束したでしょう? 絵画を見せてくれるって。」
昨夜、約束したのだ。
母の夢を、メルの夢を、見せてくれるって。
「でも、ただ見せてくれるんじゃダメ。」
モモは真っすぐにメルディアを見つめた。
「ちゃんとすべての絵を、美術館で見せて。今からでも、メルの夢を叶えて…!」
「--!」
諦めてしまった夢。
でも本当は、いつも、いつでも、心の中にあった。
その夢を叶えるために、モモはアイフリードの心臓をくれると言う。
(…モモ。)
そんな取引、彼女にはなんの利点もないだろうに…。
「…彼は、あなたの両親を殺したと聞いたわ。敵を討たなくていいの?」
最悪、メルディアはアイフリードに心臓を戻す可能性だってあるのだ。
「…いいの。」
確かに、あの日のことを忘れたことなんかない。
けど…。
「あの人のことは許せない。でも、あの人がいなかったら、わたしは今も生まれた島でひっそりと暮らしていたと思う。」
きっと、ローにも出会えなかった。
そんな未来は、想像もしたくない。
「だから、そこだけは…、感謝してる。」
アイフリードに心臓は返せない。
でも、そんな彼を愛するあなたになら、託すことができる。
「私を許すって言うの?」
メルディアは顔を歪めた。
きっと、彼女は自分で自分が許せないのだ。
そっとメルディアの手を握り、その手に心臓を持たせた。
「許すわ。友達って、そういうものだと思うの。」