第10章 覚醒
「モモ、これはお前にやる。」
「え、これって…。」
ローから差し出されたのは、キューブ状のサークルに閉じこめられ、ドクンドクンと脈打つ、アイフリードの心臓。
「あの野郎は、お前の両親の敵なんだろ? これはお前の好きにしろ。」
アイフリードは、父を、そして母を殺した。
あの日のことを、忘れたことなんかない。
でも--。
モモはローの手から、憎き男の心臓を受け取った。
手の中で動くソレは、少し力を入れるだけで、簡単に彼の命を奪えるのだろう。
しかしモモは、ソレを握り潰すでもなく、アイフリードに見せつけるでもなく、胸に抱いてただひとりの人へ向かって歩みを進めた。
「…メル。」
他の海賊たちと共に拘束された、『友達』に声を掛ける。
「ねえ、どうして昨日、わたしを連れ去らなかったの?」
あれだけの時間、一緒にいたのだ。
連れ去ることは簡単だったはず。
なのに、彼女はそれをしなかった。
「……。」
「わたしが自分の気持ちに正直になれたのは、メルがいたからよ。それって、わざとでしょう…?」
ずっと彼女は、モモに気持ちを気づかせようと、いつでも相談に乗ってくれた。
そんなこと、本当は必要ないはずなのに。
「…なんで、かしらね。…あなたを見てると、なんだか私も、綺麗な恋が出来るような気がしたからかもしれないわ。」
羨ましかった。
愛して、愛されて、宝石みたいにキラキラした恋をする2人が。
だから、その結末を見てみたかったのかもしれない。
「ねえ、モモ…。今、どんな気持ち…?」
好きな人と思いを通わせるってどんな気持ち?
「とても…、幸せよ。」
そう言って、モモは花のように笑った。
「そう…。」
その答えが聞きたかった。
その笑顔が見たかった。
夢も恋も、なにもかも失って、絶望しているはずなのに、なぜかメルディアの心は穏やかだった。