第47章 病魔の住処
怒り出すかとも思ったが、キッドはこちらをじろりと見下ろし、短く息を吐いた。
「そうだな、お前は俺の部下じゃねぇ。確かにお前にゃ、俺の指示に従う義務もねぇな。」
意外にも肯定され、モモは目を丸くした。
てっきり、「言うことをきけ!」と怒鳴られるかと思ったのに。
彼は怒鳴らなかったが、淡々と口を開き続ける。
「だから、お前が村で殺されようとも、厄介事に巻き込まれちまっても、俺の知ったことじゃねぇってことだな。」
ああ、嫌味ね?
キッドはモモの意見を肯定したわけじゃなかった。
そう思って、モモも強めな口調で言い返す。
「心配しなくても、キラーの治療を忘れたりしないわ。わたしは自分なりに、キラーを助けるために動いているの。」
モモが死ねば、キラーを診る者がいなくなる。
キッドはそれを心配しているのだろう。
そんなこと、嫌味を言われなくてもわかっている…というつもりで言葉を返したが、彼は呆れたように鼻を鳴らした。
「そんなことを言ってんじゃねぇよ。」
「……?」
じゃあ、いったいどんな意味なのか。
真意がわからず首を傾げていると、キッドからは「本当にわからないのか?」という視線を向けられた。
「俺はお前が死んだとしても、なにも感じやしねぇが、ホーキンスのヤツは違うだろうな。」
はっとした。
キッドの機嫌ばかり考えていたが、ホーキンスはいまどこに?
彼からも、村には近寄らないように忠告されていたのだから、心配しないはずがない。
「お前がこんな辺鄙な村で死んだとなれば、トラファルガーの野郎がなにを思うかわかるか?」
「……。」
ローはきっと、モモを探している。
彼は自分が、海軍に攫われたのを黙ってみている人じゃないから。
でも海軍どころか、まったく関係のない場所でモモが死んだら、ローはどんな気持ちになるだろう。
「何度でも言う。俺は、お前みたいな自分勝手なヤツが嫌いだ。」
そう言って、キッドは家の中に入っていった。
「……。」
返す言葉もない。
キッドは、嫌味なんか言ってなかった。
ただ、周りの人たちの気持ちを考えろ。
そう言いたかったんだ。
一度目は、なんのことかわからなかった。
そして二度目の言葉は、モモの心にずしりと響く重みがあった。