第47章 病魔の住処
あまり長く出かけていては、キッドになにを思われるか知れたものではないので、モモは一度家に戻ることにした。
共に病の原因を探ると約束したカトレアは、帰りがけに籠いっぱいのリンゴと、瓶に入ったリンゴジュースをくれた。
貴重な食料を貰うわけにはいかないと断ったが、彼女は籠を強く押し付けながら首を横に振る。
「いいんだ。私、そこのリンゴ畑で働いてるから、リンゴだけは山ほどあるの。」
だから昨日も、病院にリンゴを差し入れていたのだと言う。
正直なところ、川で水を汲めなかったから、瑞々しい果実とジュースはありがたい。
好意に甘えて受け取ることにした。
「お水も、よかったら畑の井戸を使ってね。…川の近くは村のみんなが集まってくるから。」
残念ながら、今のモモは争いの種でしかない。
忠告に従って、あまり人気の多い場所には近寄らない方がよさそうだ。
カトレアと別れ、モモはキッドたちの待つ拠点へと戻った。
一応、出かける名目であった薬草を摘むのも忘れない。
そっと家の扉に手をかけたところで、背後から低い声が飛んできた。
「おい、どこへ行っていた。」
「きゃ…ッ」
驚いて籠をドサリと落としてしまう。
恐る恐る振り向けば、普段より7割ほど不機嫌さが増したキッドが立っていた。
一瞬、マズイと冷や汗が出たが、すぐに頭を振って考え直す。
(なんでわたしが焦るの? 悪いことなんかしていないんだし、堂々としなきゃ。)
彼は自分の船長でもなければ、恋人でもない。
責められる筋合いはないのだ。
「…ずいぶん赤い薬草だな。」
地面に転がるリンゴを拾い上げ、嘲るように手のひらで弄ぶ。
「それは貰いものよ。薬草はこっち。」
帰り道に摘んだ薬草を見せつけると、モモは散らばったリンゴを素早く籠に戻す。
「お前、村に行ったな。」
「…そうね、行ったわ。」
嘘を吐く必要はない。
自分は、正しいことをしているのだ。
「俺は、行くなと言ったはずだが?」
「なぜわたしが、従わなくちゃいけないの? わたしはあなたのクルーでもないのに。」
わたしはわたしなんだから、好きに行動すればいい。
今までだって、ずっとそうしてきたのだから。