第47章 病魔の住処
1番最初に倒れたのは、いったい誰だっただろう。
それすらもわからないほど、病は突然やってきた。
腹痛を訴える者、吐き気を催す者、症状は様々で。
だけど続々と、老若男女問わず、猛威を振るった。
『あの海賊だ! あの海賊たちが、病気をもってきたに違いねぇ…ッ』
家族を失い、悲しみに暮れた村人のひとりが、そう叫んだ。
悪夢のような事態を、みんなが誰かのせいにしたかったのだと思う。
『そうさ…。海賊なんかを村に入れたから、海の神様が怒っちまったんだ!』
ひとり、またひとりと、自分にとって都合のいい事実を作り出す。
「違うよって言っても、みんな聞かなかった。海賊のお兄ちゃんも、病気になってるのに、悪者だって決めつけて…。」
相手が相手だけに、直接危害を加えることはなかったけど、村人は彼らに食料や日用品を一切売らず、死した人々の仇のように扱った。
「でも、お兄ちゃんたちは怒らなかったよ。私たちから食べ物を奪うこともできるのに、それもしなかった。」
キラーが倒れた時だけは、「医者を出せ!」と村に怒鳴り込んできたが、時はすでに遅く、村唯一の医者は帰らぬ人となっていた。
村人がキッドたちを敵視する理由。
それを知ることができたモモは、カトレアに尋ねてみた。
「どうしてカトレアは、みんなと同じように考えないの?」
残念ながら、海賊と呼ばれる人間は、善人よりも悪人の方が多い。
病をキッドたちのせいにするのはお門違いだが、村人の気持ちもわからなくもない。
それなのに、カトレアからはそんな気持ちどころか、むしろ慕っているような色さえも窺えた。
「だって…。お兄ちゃんたちが来なかったら、きっと私たち、とっくに死んじゃってたもん。」
目の前で人が殺されるのを、初めて見た。
次は自分の番なのか?
怖くて怖くて、堪らなかった。
「病気はお兄ちゃんたちのせいじゃないよ。ぜったい、別の理由があるんだから。」
海神様の怒りだなんて、バカらしい。
もし神様がいるのなら、どうして海賊から村を守ってくれなかったの?
村を守ってくれたのは、他の誰でもない、キッドたちだ。
カトレアには、そんな彼らがヒーローに見えたのだ。