第47章 病魔の住処
強い口調で詰られ、男はなにか言おうと口を開いたが、ぐっと堪えるように言葉を飲み込む。
彼が少なからず、カトレアを可愛く思っていることが窺えた。
「チ…ッ」
結局男はそれ以上なにも言うことはなく、放り投げたバケツを拾いあげた。
とりあえず危害を加える気は失せたらしく、川の水を汲み始める。
「お姉さん、行こ。」
他の村人が来てしまえば、さらなるトラブルを招くことになる。
それがわかっていてか、カトレアはモモの袖を引き、川辺を離れるように促した。
「…ごめんね。」
しばらく歩いたあと、カトレアは小さな声で謝ってきた。
「ベンおじさんも、他のみんなだって、本当は優しい人なの。」
決して女性に乱暴するような人じゃない。
庇うように謝る彼女に、モモは「そうね」と頷いた。
「きっと、病気のせいね。病は、身体だけじゃなく、心も蝕むものだから。」
「うん…、ありがとう。」
モモの言葉に安心したのか、カトレアは表情を綻ばせた。
「あなた、カトレアっていうの? わたしはモモ。よろしくね。」
「モモお姉さん。」
自己紹介が済んだところで、早速本題に切りかかる。
「ねぇ、カトレア。さっき言っていたことなんだけど、…いったいどういうこと?」
「さっき言っていたこと?」
「ほら、キッドたち…あの村はずれに滞在してる海賊が悪者をやっつけたって話。」
一方で病はキッドたちのせいだと決めつける村人の男。
カトレアと彼とは、意見がまるで違うように感じられる。
それを指摘すると、カトレアは「あぁ…」と僅かに俯きながら、ことの経緯を語り始めた。
「うちの村って、他の島から比べたらすごく小さな集落なんだけど、周囲に有人島が少ないせいかな。時々、外から船がやってくるの。」
外からの船は、村にとって歓迎すべきもの。
村では手に入らない物を交換したり、宿屋や商店は一気に潤うから。
「あの日も、村には商船や旅の船が停泊してた。」
裕福な商船隊は気前がよかったし、旅の途中だという芸者の一座は、とても珍しい芸を見せてくれた。
本当に、楽しかった。
あの日、村に海賊がやってくるまでは。