第47章 病魔の住処
村人の男は、モモと同じように飲み水を汲みに来たのだろう。
片手にバケツを下げていた。
そのバケツを持った腕が、怒りのせいかカタカタと震える。
「お前、よくも懲りもせずに…ッ」
怒りで頬を紅潮させる男に、モモは静かに嘆息した。
こんなに早く、よりにもよって昨日の男に見つかってしまうとは。
でも、焦ることじゃない。
モモはなにも、まるっきり考えなしに村までやってきたわけではなかった。
昨日は宿中の人に責められ、追いつめられたから怯んでしまったけど、モモには歌がある。
あまり人前で歌声を晒すのは気が進まないが、唄うことくらいしか自分を守れないから。
「…お前、ひとりなのか。」
周囲にキッドやホーキンスがいないことを確認した男は、案の定、モモに危害を加えようと近づいてくる。
バケツを放り投げ、毛深い腕の袖を捲った。
「今度こそ、責任を取らせてやる…!」
ズンズンと歩み寄ってくる男に、モモは仕方ないと息を吸い込む。
しばらく、眠っていてもらおう…。
「なにしてるの、やめて!」
眠りの歌を唄おうとした瞬間、第三者の声が割り込み、モモと男の間に小さな人影が飛び出してきた。
少女だ。
それも、見覚えがある。
ああそうだ、宿屋でぶつかった、リンゴをたくさん持っていた少女。
「カトレア…!」
少女の登場に、男の足が止まり表情が強張る。
「ベンおじさん、なにしてるの。」
カトレアと呼ばれた少女は、意志の強そうな瞳をキッと吊り上げ、男を睨みつけた。
「な、なにもしてねぇよ。」
「嘘ばっかり。今、このお姉さんにヒドいことしようとしてたでしょ!?」
「……ッ」
いつから見ていたのだろう。
急いで走ってきたのか、カトレアの息は上がっている。
「だったらなんだ。この女はな、あの海賊たちの仲間なんだよ。アイツらのせいで、ウチの村はこんなことに…。」
そう、その理由が知りたい。
口を挟もうか迷った時、カトレアは叫ぶように怒鳴った。
「違うわ!」
カトレアの瞳には、うっすら涙が溜まっていた。
「お兄ちゃんたちは、悪者をやっつけてくれただけじゃない…ッ!」
悪者を、やっつける?
なに、どういことなの…?