第47章 病魔の住処
水分が摂れず、喉が詰まりそうな食事を済ませたモモは、キラーの容態が今は落ち着いていることを確認して、立ち上がる。
「ちょっと森に薬草を探しにいってくるわ。」
…というのは口実で、本当は村に行くつもりだ。
正直に話せば、キッドはモモを止めるだろう。
「あ? 昨日採りにいったばかりだろ。」
「えぇと…、新鮮な方が効能が高いの。だから、その…。」
嘘を吐くのは、いつでも心苦しい。
「そんぐらい、俺が採ってきてやる。」
酒瓶を置いて腰を上げようとするので、慌てて押し止めた。
「ううん…! 慣れてないと見つけにくいからッ。あと、似たような毒草もあるし、わたしが行く!」
ちょっと強引すぎたかな?
不審そうに眉をひそめられた。
「…そうかよ。」
けれど結局、それ以上引き止められることもなく、キッドは再び酒に口を付けた。
そのことに安堵しながら、モモはいそいそと家を出ていく。
「…気ィつけろよ。」
出る直前に そう声を掛けられ、少しばかり驚いた。
「あ…、ありがとう…。」
嫌いと言ったと思えば、ふとした瞬間に気遣いを見せたりもする。
表情のないホーキンスとは別の意味で、彼は本当によくわからない男だった。
ひとりで家を出ることに成功したモモは、人目を忍んで村へ向かった。
もっとも、忍ぶ必要も感じられないくらい、村は閑散としているのだが。
森から流れる川は、村の中心部を通っていたはず。
飲み水を確保して、病の調査もするつもりだ。
ほどなくして、目的の川へとたどり着く。
透き通った水は、森の中で見た時と変わらず、そのまま飲んでも差し支えないくらい美しい。
未だ口に残る塩気をなくしたくて、モモは川辺に膝をついて水を両手で掬った。
冷たい水に口をつけようとした、その時…。
「おいッ、お前…!」
後ろから怒鳴り声が上がり、モモはびくりと肩を竦ませた。
振り向くと、声の主は村人の男。
そして運が悪いことに、見覚えがある。
彼は、昨日宿屋でキッドに怯えながらも、果敢に責め立てていた男だった。