第46章 美女と野獣
「待って!」
無言のまま腕を引き、モモを村から連れ出そうとするキッドを呼び止めた。
けれど彼は、振り向くどころか返事もせず、足を止めることもない。
「ねぇ、待ってってば…!」
堪えかねて掴まれた腕を痛いほど引けば、ようやくこちらを振り返った。
「…なんだ。」
「なんだじゃないわ! ずっと待ってと言ってるのに!」
無視をしといて、それはないだろう。
それに、モモが聞きたいことを、キッドはたぶん予想している。
「さっきのアレは、いったいどういうこと?」
「アレ? なんのことだ。」
「とぼけないでよ! 村人の言っていたこと、本当なの?」
忘れたとは言わせない。
村人は確かに“お前たちのせいで俺たちはこんな目に”と叫んでいた。
「病気の原因は、本当にキッドたちが…?」
でも、キッドもホーキンスも、そんなことは一言だって言ってなかった。
大真面目に尋ねているのに、キッドはこちらをバカにしたように「フン…」と鼻で笑う。
「そんなわけあるか。」
それはもう、清々しいほどの否定。
「……違うの?」
「バカか、お前。キラーの様子を見ただろう。なんで俺たちが、村人はともかく仲間を苦しめなきゃならねぇ。」
確かに…そうなんだけど。
「じゃあ、あの人たちが言っていたのは、どういう意味なのよ。」
「そんなの、俺が知るか。」
「えぇ?」
知るかって…。
村人だって意味もなくあんなことを言うはずない。
それなのに、当の本人は理由すら知らない。
「だったら理由を聞かないと。」
もしかしたら、そこに病を治すヒントがあるかもしれないし。
「…お前、自分がなにをされそうになったのか覚えてんのか。」
「……。」
「忘れたなら教えてやる。お前は今、殺されそうになったんだよ。」
キッドの言うことは、誇張でもなんでもない。
事実だ。
血走った目から向けられたもの。
それは、紛れもなく“殺意”だった。