第46章 美女と野獣
もし、キッドが助けてくれなかったら、モモは村人たちに酷い目にあわされていたかもしれない。
そう思うと、背筋が冷える感じがする。
「でも、放っておくわけにもいかない…。」
彼らの言うことがキッドたちには心当たりのないことなら、それをきちんと説明すればわかってもらえるはず。
「一度、村の人たちと話をしてみましょうよ。」
誤解をといたあと、みんなで病の原因を探ればいい。
「…冗談だろ? てめェはつくづく、バカな女だな。」
真剣に話しているのに、心底バカにするような口調で言われた。
「言ったはずだ。アイツらのことなんざ、知ったこっちゃねぇ…と。お前はキラーの治療に専念すれば、それでいい。」
「じゃあ、村の人たちがどうなっても構わないって言うの?」
自然と眉間にシワが寄った。
「ああ、そのとおりだ。」
「……!」
心のどこかで、キッドはそんな薄情な人ではないと思う自分がいた。
“村人に関わるな”という彼の言葉は、自分を守るためのもので、いざ危険が迫れば、こうして助けにも来てくれたから。
でも、それは勘違い?
助けてくれたのは、自分が死ねば仲間の治療をする薬剤師がいなくなるから?
わからない…。
「ホーキンスの野郎は、お前のことをダチだと言うが、俺はアイツの気が知れねぇな。」
キッドは、バカにするでも嘲るでもなく、淡々と呟いた。
「何度も言うが、俺はお前みたいな女が嫌いだ。」
掴まれていた手は、いつの間にか離れていた。
「お前みたいな…、自分勝手な女は特にな。」
そう言うと、もう用はないとばかりに彼はモモを置いて先に歩いていってしまう。
「……。」
面と向かって“嫌い”とハッキリ告げられたのは、おそらく初めてのことだ。
「わたし、自分勝手かしら…。」
自分の短所はたくさんあるけど、あまり自分勝手と思ったことはない。
村人を助けようとすることが、自分勝手な行いだとも思わない。
それなのになぜ、こんなにもヒリヒリと痛むのだろう。
キッドの言うことなんか、聞くことはない。
けれど、噛みつかれた痕が心に残って、なかなか消えることがなかった。