第46章 美女と野獣
鬱々とした表情から一変、燃えるような眼差しを向けられて唖然とする。
海賊の、一味…?
確かにモモは海賊だが、彼女が言っているのは、おそらくキッドとホーキンスのこと。
「いえ、わたしは…--」
「みんな! ここに、あの連中の仲間がいるよ!」
否定しようとしたが、女性の行動は早かった。
宿内に聞こえ渡るような大声で、モモの素性を決めつける。
すると、どうしたことか。
看病していた家族。
まだ意識がある患者。
その全員の視線がこちらに向く。
その眼差しは、女性と同じように驚きと怒りに染まっていた。
「なんだって…?」
「あいつらの、仲間…。」
村人の口から零れ落ちる言葉。
その言葉の仄暗さに、モモは背筋がスッと冷えていくのを感じた。
(なにかしら。これは…。)
危ない。
直感的に、そう思った。
その場の雰囲気に気圧されるように、一歩後退する。
その様子を見て、村人がゆらりと立ち上がった。
「…おい、どこへ行く。逃げるなよ。」
ひとり、またひとりと立ち上がり、こちらへ近づいてくる。
(なに…? どうしたの…?)
理由を尋ねたくとも、張り詰めた雰囲気がそれを許さない。
そして、モモのすぐ近くにいる女性が、唸るように呟いた。
「病の原因が知りたいだって…? ふざけたことを言うんじゃないよ! 全部、あんたらのせいじゃないか…ッ」
「え…?」
どういうことだろうか。
詳しく聞きたいのに、彼らは正気を失ったかのように怒り狂っている。
「そうだ! 元はといえば、お前らが原因だ!」
「俺たちになんの恨みがある! 責任を…、責任を取れ!」
女性の発言を皮切りに、村人たちは次々と口火を切る。
「待って…ッ、それは、どういう…?」
「しらばっくれんじゃねぇ! ぶっ殺してやる!」
ダメだ、話も通じない!
それどころか、常軌を逸した彼らは、今にも襲いかかる形相だ。
「なぁ、この女を捕まえて、海に流そう。そうすれば、きっと……。」
物騒すぎる提案にギョッとする。
しかし驚いたのはモモだけのようで、村人たちは名案だと頷き合う。
じりじりとにじり寄る村人に、本格的に恐怖を覚えた。
「や、やめて…。」
いつの間にか後ろにも回り込まれ、逃げ道すら塞がれてしまった。